第11話 ワイヤー
学校が終わると、砂川は電車を乗り継いで、ホームセンターへ向かった。辿り着いた店は、本屋と隣り合わせになっており、近くにスーパーもあった。一種の商業タウンのようになっているようだ。
ホームセンターの中に入り、ワイヤーを探した。図書室で借りた推理小説の中では、それなりの長さが必要だと書いてあった。
目的のものを見つけると、レジの店員に手渡した。背丈の高い、がっちりとした体格の男だった。
出来るだけ遠くのホームセンターにやって来た理由は、警察がワイヤーを電柱に巻きつけた犯人捜しをする際に、見つからないようにするためだった。クレジットカードを使わなければ、明確な証拠が残るはずもなく、店側も購入履歴など、すぐに破棄してしまうだろう。まさか、このワイヤーが犯罪に使われると思う者はそういないはずだ。
次は、加藤が住んでいる家の近くに向かった。ほぼ新築の家が建ち並ぶ新興地域であった。友達の伝手で、何度か一緒に遊んだことがあり、場所は分かっていた。
奴は、午後八時過ぎになると、バイクをふかして、仲間と一緒にドライブに出かける。いつもの習慣で、欠かしたことはない。騒音トラブルになり、学校側に苦情が来ることさえあった。
家に帰りは遅れると連絡を入れたあと、加藤の自宅近くのハンバーガーショップで時間を潰した。普段、本など読まないが、時間を作って推理小説を読んでみると、案外面白いことに気付いた。
午後八時近くになると、店を出て、加藤の自宅近くに向かった。けたたましいバイクのエンジン音が聞こえ、自宅の門扉から数台のバイクが出て行くところを見送った。
周囲に人がいないことを確認してから、自宅前の電柱と電柱の間に、ワイヤーを巻きつけた。上手くいくかは分からないが、一旦はこれで完成だった。そのあとはいつものように家に戻った。
翌日、加藤は学校には来なかった。
休み時間になると、砂川は友人に尋ねた。
「加藤の奴、学校に来てないみたいだけど、風邪でも引いたのかな?」
「さあ……?」
友人でさえも知らないようだった。
その日の放課後、家で勉強をしていると、友人から電話があった。彼は切羽詰まった声で言った。
「加藤の奴が、バイクで事故って大怪我したんだってよ!」
「え? 事故って、どんな?」
てらてらと光るワイヤーの輝きが、頭に浮かぶ。
「なんでも、家の前にワイヤーが仕掛けてあって、そこにバイクで突っ込んで、顔とか体とかがズタズタになっちまったらしい。今、手術中みたいだ」
「マジかよ。ヤバいな」
やった! 心の中で快哉を叫んだ。これで、荒浜の貞操は守られた。
事件のあとから、加藤が学校に来ることはなくなった。詳しい話は知らないが、胴体が切断されかけた挙げ句、腕を一本、失ってしまったらしい。
何度か遊んだ間柄でありながら、不思議と罪悪感は感じなかった。
彼女を守るためだ。仕方がない。砂川はそう納得することにした。
そして、事件から一ヶ月も経たずに、彼女は転校してしまう。
こんなことをしなくとも、二人の仲が親展することはなかったのではないかと、今更ながら思うのだった。
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