第18話

 母親と末弟の遺品を受け取った日から一カ月が経ったある日、新聞に目を通していた通春が兄へ声を掛けた。

 「兄貴、これを見てくれ!」

 通春は開いた新聞のある記事を指さした。通成もその記事に視線を落とす。

 下部に掲載されているためそれほど大きな記事ではなかったが、そこには鬼が実在したことを示す内容が掲載されていた。その伝承が多く残っている地名も合わせて載せられている。

 記事によれば、農民が畑を耕していた最中に、偶然鬼の頭部とおぼしき頭蓋骨の一部を発見したというものだった。頭蓋骨の上部には角と思われる突起が付いている写真も載っている。その頭蓋骨の一部は、高尚な僧侶の元で保管されているとのことだった。

 「兄貴、どう思う?」

 通成は写真を凝視した。写真自体は鮮明とはいえず、角と言われればそう思う者もいるだろうが、記事に書かれていることに信憑性は持てそうにない。

 「写真自体が不鮮明で分かり辛い。それに、角と思われるものの一部が欠けていて、これだけでは何とも言えんだろう」

 「いくつか鬼の存在を示す旨が掲載されているんだが、その中で一つ気になるものを見つけたんだ。明治の初めに、女が鬼の子供をかばって殺されたことが書かれている」

 通成の思考が止まる。それと同時に一気に血の気が引いていくのを感じた。驚きつつ弟を振り返り、

 「何だって? 今、鬼の子供を庇ったと……」

 通成は新聞を掴むと、その記事を睨み付けた。

 内容は、いくつか挙げられている鬼の存在を示す内容の一つとして書かれていた。明治初期に、ある農家の女が握り飯や果物などの食べ物やこしらえた子供用の着物をどこかへ運んでいることを隣人の女がいぶかしんだ。隣人が女の後を付いて行くと、誰もいないはずの廃寺に女児がいることを知る。その女児の目はまるで血のように赤く、額には二本の角が生えていた。隣人は恐ろしくなり、このことを近隣の住民に話した。そして、鬼の女児と女の前に刀を所持した抜刀隊が駆け付けた。

 鬼の女児を庇って女は切られたが、すぐに命を落とすことはなく、最後の力を振り絞り女児を逃がした。そのせいで、更に切り付けられ女は絶命した。逃げた女児も切り殺され、川に捨てられた、と記載されている。

 「何だ、この記事は? 女児が切り殺されて川に捨てられただと?」

 怒りで新聞を持つ手に力が加わり、その部分にみるみるシワが寄る。

 通春は怒りで震える兄に視線を向けて、

 「前に幼い頃の凛さんの夢を見たと話していただろう? 凛さんと俺が襲われた日だ。警察の抜刀隊が迫って来たと」

 通成は唇を噛んだ。

 あの時に見た夢が脳裏に蘇ってくる。

 この記事に書かれている女児は凛で間違いないだろう。切り殺され、川に捨てたとする説明は、逃がしたことを隠すために警察がついた嘘だと、通成は推測する。

 「記事に書かれている住所は、ここからそう遠くないな……。兄貴、大丈夫か?」

 通成の両の手はまだ震えている。

 通春はそんな兄を心配そうに見つめた。最初に兄から話を聞いた時はただの夢とばかり思っていたが、ここまで内容が似通にかよっていることに不気味さを感じずにはいられなかった。

 「通春、この話は絶対に凜にしないでくれ」

 「ああ、分かった」

 頷いてから、通春は凛に視線を向けた。

 凛は寝室で裂けた枕の布を縫い合わせているところだった。

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る