第32話
午前零時を過ぎた。
和恵と達夫は目を覚ました。
「何か聞こえなかった?」
「ああ、聞こえた」
二人に聞こえたもの…それは高いキーンという金属音だった。
二人は無言で起き上がって家を出た。
家の外には他の住民達が立っていた。
キーン…
また聞こえた。
ぼんやりと立っていた和恵の頭からカマキリの目のような物が盛り上がって表れた。
達夫も近隣の住民の頭にもそれが表れた。
キーン…キーン…キーン…
音と共に住民達の体から黒い煙が上り始めた。
まるで体を焦がしていくように黒い煙が上り、和恵や達夫の体が頭から消えた。
町のあちこちから煙が上った。
煙は町全体を覆った。
『本当にやるのかい』
『そういう命令だから仕方ないよ』
二匹の異形の生物は指先から炎を燃やし、黒い煙に触れた。
血のような真っ赤な炎があっという間に町を覆った後、数秒で消えた。
一瞬の炎で建物が跡形もなくなって一面が黒い大地になった。
『全くあいつが人間の世界で暴れなきゃ面倒臭い事せずにすんだのに』
『あいつ馬鹿だから仕方ないさ。後は王と人間の代表が話をつけてくれるよ。いつも通りにね』
翌朝、海沿いに広がる草原に風が吹いた。草の緑の波がうねる脇で小さな白い花が咲いていた。
白い花に茎をつたって一匹のカマキリがよじ登って来た。
カマキリは花に潜んで獲物を待っていた。
魔物~蟷螂~ 久徒をん @kutowon
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