第31話
『全く…とんだ迷惑だ』
『そう言うな。さっさと済ませようぜ』
大野の頭の中で声がした。振り向くと黒い二匹の異形の生物が立っていた。
「何だ、また化け物か」
大野は腰に下げた拳銃を持って構えた。
『おお怖っ。こいつ殺してもいいか』
『だめだよ。そういう事をしに来たんじゃないだろ』
二匹の会話が大野の頭の中で聞こえた。
「俺達を食いに来たのか」
大野は二匹を睨んで訊いた
『人間を食う下等な連中と一緒にしないでくれる?』
『ああ、心外だ』
二匹は大野の問いに呆れた口調で答えた。
『俺達はこいつらの回収と鎮火に来たの』
一匹が空を指差した。
大野が見上げた。空に何かの群れが飛んでいた。
『そういう事。だから引き取らせてもらうよ』
もう一匹が大野に近づいた。
「だめだ。そいつは…」
『さっきから見ていたけど君の知り合いみたいだね。でもその姿になった以上はこの世界に置いておく訳にはいかないんだよ』
「それがお前達のルールか」
大野は訊いた。
『それ以上は言えないね。じゃあ引き取らせてもらうよ。その石もね』
大野は持っていた黒い石を手渡した。
一匹が手を上げると治也の体が浮いて絹のような物に包まれて繭の形になった。
「何も答えないだろうけど訊くが、お前達は人間を滅ぼすのか」
『少なくとも俺達の決める事じゃないよ』
『そう。頼まれたからここに来て後始末しているだけ』
「わかった。もういい。そいつの始末と火消しは頼んだぞ」
大野は拳銃を下ろして山道を降りた。
『達観して変わった人間だね』
『こんな状況を見たら何を見ても驚かないだろう。状況を受け入れた人間は強いからね。さあ仕事だ』
二匹の生物は浮いた繭を引いて広場に向かった。
「何かが飛んでいるわ」
「ああ、火が消えていく」
望海と宮川は空を見上げていた。
望海の横をふっと何かが通った。
望海が見ると燃える黒い木に何かが飛び回っていた。
「いやっ、またカマキリ!」
望海は叫んだ。
「人間を襲わないようだな」
宮川は木に群がるカマキリを見ながら言った。
三十センチ位の淡い紫色のカマキリが木の周りを飛び回ると炎が消え、黒い木の残骸が粉々になった。
「火消しのカマキリか。こういうのもいるのか」
「一体何だったの。いきなり襲ったり助けたり。みんな死んだり怪我したりして」
望海は泣き崩れた。宮川はそっと望海の肩に手をかけた。
地上のカマキリの群れが空の群れと合流して紫の波のようにうねって空の炎を消した。
夕暮れの淡いオレンジと青が混ざった空が広がった。
「俺達は結局助かったんですか」
護送車から降りた井沢が訊いた。
「さあ、わざわざ火消しまでやってくれたから助かったんじゃないか」
澤野は荷物を下ろして答えた。
「また夜が来るな。ゆっくり寝たいもんだ」
大野は呟きながら警察署に入った。
「望海、大丈夫だった?」
「うん」
「全く、一人で急に騒いでびっくりしたんだぞ」
いつもの食卓の会話に戻り望海はホッとした。
夜が更けて望海はベッドで眠った。
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