第30話
「人の声は出せるみたいだね」。
治也は立ち上がった。
激しく燃える大樹の枝が次々と治也を打ちのめした。
「所詮は食われるだけのオスのくせに」
麻理の黄緑色の目が細くなった。
大樹の枝が大きな槍の形になった。
大樹の槍が治也に伸びた。
治也は槍をよけて、低空で飛んで麻理の腹の下の幹に飛びついた。
治也の足が長い刃になり、治也は海老そりになった。足の刃が麻理の両手をバッサリ切り落とした。
「ぎゃああああ!」
麻理は叫んだ。
宙返りした治也の腕も長い刃に変わり両手が麻理の顔に刺さった。
治也は力任せに両側に手を伸ばした。麻理の顔が真っ二つに裂けた。
麻理の体から黄緑色の血が噴き出た。治也は右手の刃を麻理の胸に突き刺した。
刃は体を貫いて後ろの幹に刺さった。
首と両手を失った麻理の体が大樹の幹に力なくぶら下がった。
炎が大樹を包み込んだ。
「これじゃ。攻撃は無理だな」
燃える空を見ながら大野は山道に戻って歩いた。
目の前に治也が降りてきた。両手は長い刃のままだった。
「何だ。俺を殺すのか」
大野は静かに話し掛けた。
治也は自分の胸に右手の刃を刺した。
「うわああああ!」
「おい!」
治也の胸から黄緑色の血が流れた。
刺さった刃が手の形に変わり治也は胸の中から何かを取り出して大野に差し出した。
「何だそれは」
治也の手には黒くデコボコした石のよう物が乗っていた。
大野は黙ってそれを受け取った。
「誤解していた…すまなかった…」
弱々しく呟いて治也はガクッとひざまづいてうつ伏せに倒れた。
「おい、末永!」
大野は治也を抱きかかえた。治也は何も答えなかった。
「馬鹿野郎。謝るなら人間の姿で謝れよ」
大野は静かに呟いた。
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