第29話

 校庭のグラウンドから隊員達が担架に運ばれていくのを望海は見ていた。

 「こんなの酷すぎるよ」

 「そうだな」

 隣で宮川が座って見ていた。

 「あの黒い木は何なの」

 「さあな。今調べているよ」

 突然生えた黒い木に白衣を着た男達が集まっていた。

 「何か黒い煙みたいなのが出ているけど大丈夫なの?」

 「もう何が起きてもおかしくないな」

 慌ただしく人が動く中、二人は時々煙を吐く黒い木を眺めた。

 「ちょろちょろ動きやがって」

 ライフルを構えて大野は呟いた。

 魔人と化した治也と麻理は空中で戦いを続けていた。

 治也の拳と麻理の長い刃が何度もぶつかり合い、二人の体から淡い黄緑色の血が流れていた。

 治也が麻理の体を掴んだ。麻理の動きが止まった。大野がライフルを撃った。

 銃弾が麻理の後頭部に命中した。

 「よし」

 大野はライフルを下ろした。

 麻理が治也を蹴飛ばして大野を見下ろした。

 「怒ったか。やばいな」

 大野が逃げようとした時、足元から黒い木が突き出て大野は吹き飛ばされて斜面を転がった。

 「うわああああ!」

 大野は転がって崖から落ちた。体が宙に浮いた。

 「ああ、だめだ」

 大野が目を閉じた。両腕を掴まれた気がした。

 「えっ」

 治也が大野の両腕を掴むとぶん投げた。大野は山肌の茂みに吹っ飛んだ。

 「いたたたた。全く乱暴な奴だ」

 大野は立ち上がって二人の戦いを見ながら山道に向かった。

 治也が麻理に飛びかかって殴った。麻理は黒い大樹にぶつかった。

 そして大樹にめり込む様に同化した。

 治也が大樹に飛びかかると太い枝が治也を吹っ飛ばした。

大樹が突然爆発した。

 大樹の爆発の後に山の黒い木も次々と爆発した。

 そして町のあちこちに生えた黒い木も爆発を起こした。

 炎は空気に引火して町全体が炎に覆われた。

 「何だよ、これは」

 大野は空を覆う炎に絶句した。

 校庭でも黒い木が爆発して人々が倒れた。

 「何だ。この炎は」

 「燃えているのに全然熱くないわ」

 宮川と望海は異様な状況に驚いた。

 消防隊員が放水したが、火の勢いは衰えなかった。

 治也は立ち上がって燃え盛る大樹に飛びかかった。大樹は枝を伸ばしてきたが治也はよけて幹にしがみついた。

 樹皮から刃が伸びた。刃は治也の腹を貫いた。

 「うわあああああ!」

 治也は叫んで幹から離れた。

 樹皮から麻理が生える様に出て来た。上半身が現れて麻理はニヤリと笑った。

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