第28話
「学校の銃撃が止んだそうです」
井沢は無線を受けて大野に言った。
「そうか。何があったんだ」
「まさか全滅か」
澤野の言葉に他の刑事達は黙った。
山の方からは砲撃が続いていた。
「もう少し寄ってみないとわからんな」
大野は呟いた。
「またですか…無茶はやめて下さいよ」
井沢は呆れた口調で言った。
「何だあれ」
澤野が指を差した先を大野達は見た。
「人だな。変異した奴か新手の化け物かも知れんな」
砲撃のする方向に治也は突っ込んだ。
程なくして砲撃が止んだ。
「やばいな」
大野は呟いた。
広場の上空に屈折が生まれて治也が現れた。
「何だ」
井沢は驚いた。
「撃て」
澤野は叫んだ。
「いや、待て」
大野は刑事達を制止して治也を見た。
「お前…末永か」
治也は唸りながら構えた。
「何が起きたんだ」
「うおおおおおお!」
治也は大声で吠えた。もはや人の声ではなかった。
地面が震えた。
「何だ!」
大野達はしゃがんだ。
黒い木が次々と治也に襲い掛かった。
治也はすばやくよけて伸びた木を殴って砕いた。
次々と地面から伸びる木に大野達は驚いた。
「撤退!」
大野は叫んで他の刑事達と広場から逃げた。
黒い木が次々と地面から伸びては治也が砕いた。
「どうやら俺達の敵じゃないようだな。味方でもなさそうだが」
広場から離れた木陰から澤野が呟いた。
「末永…どうしてだ」
大野は変わり果てた治也の姿に愕然とした。
木々の槍のような攻撃が止むと広場に大きな黒い木が地中から伸びた。
その木の中から麻理が宙に浮いて現れた。
「あれは…女?」
澤野が呟いた。
「ああ、大将が言っていた変異した女ってやつか」
大野は声をひそめて答えた。
治也は麻理に飛びかかった。
麻理はすばやくよけて腕の刃を振り回した。
治也が殴りかかった。麻理はよけた。木から枝が次々と伸びた。
二人の戦いが続いた。
木の枝で殴られて治也が大野達のすぐそばに落ちた。
「やばい」
井沢は叫んだ。
治也は大野を見るなり、大野の頭を掴んだ。
「末永…お前に殺されるのか」
大野の脳裏に子供の時の記憶がよぎった。
「おい、金持ってきたんだろうな」
「ないだと。何やってんだよ。このタコ!」
同級生を殴っている数人の少年達が見えた。
「ちっ…明日持って来いよ」
少年達が背を向けた時、殴られていた同級生がナイフを取り出した。
「危ない!」
その声をかけたのが治也だった。
少年達は恐れて逃げた。
ナイフを持った生徒は治也を睨んで、
「どうして止めたんだよ!」
と飛びかかって来た。
「やめろ!」
治也がよけると生徒は転んだ。生徒の腹から血が出ていた。
「何やっているんだ!」
大人の男の声が聞こえた…
「死に際に嫌な事を思い出させるなよ。末永」
大野の声に治也は手を離して飛び立った。
「うおおおおおお!」
治也の叫び声が響いた。
「くそっ、手間かけさせるなよ」
「大野さん!」
井沢の声を背に大野は広場に向かった。
広場はあちこちに穴があいていた。
大野は広場の入口に落ちていたライフルを拾った。
「大野さん」
井沢と迷彩服を着た男達が走って来た。
「何だ」
ライフルの銃身を調整しながら大野は答えた。
「三十分後にここを一斉に攻撃するそうです。撤退しましょう」
「何だと」
大野は一瞬、男達を睨んだ。
「まあ、仕方ないか。だがもう少し時間をくれ」
「何をするつもりですか」
「青春の悲しい思い出にさよならするのさ」
大野の答えに井沢は「はあ?」と呆れた。
「前の男と違ってあの女は首が固そうだから首を狙っても効かないだろう。だがあの女はなぜか後頭部に傷がある。あそこにぶち込むのさ。あとはあいつが何とかしてくれるだろう」
大野は射撃用のスコープを覗いて言った。
「何とかって…敵かも知れないのにですか」
「まあ今は味方ってところだな。全く馬鹿力だけの能無しに変わりやがって。もっと頭のいい化け物になれっつーの」
大野はライフルにスコープを付けた。
「そういう事だ。お前達は先に行ってくれ。俺も後を追う」
「本当にいいのですか?」
「ああ、いいから早く行け」
大野の厳しい口調に井沢は「それじゃ」と男達と一緒に去った。
「うまくいくといいがな」
大野は呟きながら銃を構えた。
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