第27話
「全くキリがないわね。お前を殺しに来たのに無駄な時間をかけたわ。私は潮凪山の洞窟にいる。用があったら来る事ね」
麻理はそう言うと体から黒い煙を出して消えた。
「おじさん…」
望海は弱々しく叫んだ。
宮川は息を荒くしながら目を開け、
「あいつが言った場所を現地に報告しろ」
とかすれた声で隊員に指示した。
ドーンと地面が大きく揺れた。
「な、何だ」
宮川を担いだ隊員達が叫んだ。
望海は立ち上がって隊員に抱えられながら歩きだした。
校舎の外では黒い木があちこちに伸びていた。
そして人間と同じ背丈の黒いカマキリがあちこちで暴れていた。
宮川達は校舎のすぐ近くに止めてあった装甲車に乗り込んだ。
「おじさん、しっかり!」
「ああ、大丈夫だ。君は…血だらけじゃないか」
「私は大丈夫。おじさん、しっかりして」
隊員が「ここで待機して下さい」と言って車のドアを閉めた。
車内は二人きりになった。
「私達、死ぬの?」
「さあな。その時はその時だ」
車の天井から次々と何かが乗る音がした。
「きっとあいつらよ」
「ああそのようだな」
望海は大きく目を開いて拳銃を持った。
「おじさん、大丈夫だから。大人しくしていて」
「大丈夫って何をするんだ。おい」
望海は車のドアを開けて走った。
「もう怖くないわ」
望海は天井にいる黒いカマキリに発砲した。カマキリは望海を見た。
もう一発撃って望海は走り出した。
カマキリが追って来た。
「どうしようか」
望海は水道の横のモップを持って走った。
目の前でカマキリが男を襲っていた。
望海は思いっきりモップの棒でカマキリの頭を殴った。
カマキリが一瞬ひるんだ。
「その虫顔はもう飽きたわ」
望海が後頭部を撃った。カマキリはその場に倒れた。
隊員の男は驚いた。
「何やってんのよ。追って来たわよ」
「あっああ…」
望海を追って来たカマキリが飛びかかって来た。
「頭を撃って!」
望海の指示で男は発砲した。カマキリは一瞬ひるんだ。
望海はモップで頭を殴った。
もう一匹が襲ってきた。
男が頭を撃った。カマキリがひるんだ。
もう一匹が来た。
望海がモップで頭を殴り、別の隊員がカマキリに発砲した。
三匹がひるんだ隙に、
「後頭部を撃って!」
望海が指示をして走り出すと他の隊員達がカマキリの後頭部を狙って撃った。
三匹のカマキリの頭が吹き飛んだ。
「やった。でもキリがない」
望海はグラウンドへ向かった。
「何なの…」
グラウンドの真ん中には仮設の柱とスピーカーが立てられた。
柱の下の隊員が手を振ると大きな音でピーという信号音が響いた。
望海は体育館の物陰に隠れた。
「あれで集めてやっつけるのね」
音に釣られてカマキリ達がグラウンドに集まって来た。
その後、一斉に射撃や砲撃が始まった。
「これで終わるのね」
望海はホッとしたが、また金属音が聞こえた。
「何?またあの女が来るの」
望海は辺りを見回した。
仮設の柱の上に光の屈折が起きて人のような物が見えた。
黒っぽい紫斑の姿は麻理と似ていたが違った。
「今度は何なの」
望海は物陰に潜んでグラウンドを見た。
それは薄い膜の羽根を広げた治也だった。
治也はカマキリ達に突っ込んで次々と体を引きちぎった。また周囲の隊員達にも飛びかかり暴れた。
ほんの数分でカマキリや隊員達の体がグラウンドのあちこちに散らばった。
「な、何なの」
スピーカーからの音が途絶えた静寂の中で治也はグラウンドを見回した。
また金属音がした。
治也は山の方に飛んで行った。
「死んだの。みんな…うっ!」
グラウンドの惨状に望海は吐き気を催しながら校舎へ走った。
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