第26話

 日が傾いて来た頃、護送車とパトカーが山の中腹に着いた。

 山道の脇には爆撃の跡が残っていた。

 「ここも随分と派手にやったな」

 大野は焦げた木々を見ながら言った。

 「カマキリが出てきたら口に突っ込んで撃て。いいな」

 大野は後ろの刑事達に指示した。

 「大野さん、本当にいるのかね。あの化け物が」

 澤野が辺りを見回しながら言った。

 「さあな。あれだけ子供がいたって事はまだ残っていてもおかしくないだろう」

 大野も辺りを警戒しながら山道を歩いた。

 目的の広場に着いた。

 「よし、ここで待機。無線機は使えているな」

 「はい。良好です」

 井沢が無線機を地面に置いて感度テストをした。

 「ん?」「何だこの音は?」

 大野達の周辺で金属音が響いた。

 「また聞こえた」

 「ああ、そうだな」

 自衛隊が打ち合わせ用に借りた一階の教室の前にいた望海と宮川にも金属音が聞こえた。

 「怖い」

 望海は宮川に抱きついた。

 「大丈夫だから。何かあったら物置に隠れなさい」

 「うん」

 宮川は望海の体を離した。

 「それじゃ、外に行ってくる…うっ!」

 宮川が話す途中で左肩から刃が飛び出た。

 「きゃあああ!」

 望海は悲鳴を上げた。

 悲鳴を聞いた隊員達が教室から出て来た。

 肩から刃が抜けると宮川はその場に倒れた。

 その後ろに麻理が立っていた。

 上半身は紫斑に覆われた裸で腰から下は濃い緑色の鱗のような物に覆われた姿をしていた。

 「お前だけは私の手で殺してやらないとね」

 麻理は手を細長い鎌に変えて振り上げた。

 パンパン…

 他の隊員達が拳銃で発砲した。

 銃弾が麻理の体に命中したがびくともしなかった。

 「私は魔物の血を受けて生まれ変わった魔人だ。そんな物効かないぞ」

 麻理はニヤリとして隊員達に飛びかかった。

 あっという間に数個の首が床に転がった。

 「いやああああ!」

 望海は悲鳴を上げた。

 「さっきからうるさい子だね」

 麻理は望海を睨んだ。

 「いやあ、来ないで!」

 望海は後ずさりしたが倒れた隊員に引っ掛かって転んだ。

 「あ~あ。せっかくの美人が血だらけになったね」

 血だまりに転んで望海の顔や服が赤黒い血に染まった。

 「どうしよう。殺される…」

 望海の手に拳銃が触れた。

 死体の手から拳銃を離して望海は銃口を麻理に向けた。

 「ふん。勇ましい子だ。そんなので私は死なんぞ」

 麻理は低い声で嘲笑った。

 「よせ、撃つな」

 宮川のか弱い声に望海はハッとした。

 麻理も宮川の声に気づき、振り向いた。

 「そうだ。撃っても無駄だ」

 麻理は足で宮川の左肩を踏みつけた。

 「うわあああ!」

 宮川の悲鳴を聞いて麻理は喜んで何度も踏みつけた。

 「ハハハハハ、よく鳴くね」

 麻理は宮川を蹴飛ばした。宮川は後ろに吹っ飛ばされた。

 パン…

 麻理のすぐ後ろで銃声がした。

 「おや、右目が見えなくなったわ」

 望海が麻理の後頭部を撃った。

 麻理の顔から黄緑色の血が流れた。

 「だからその程度で死なないって言ってんだよ。このクソガキが!」

 麻理は振り向きざまに望海を蹴飛ばした。

 望海は「ギャッ」と小さな悲鳴を上げて吹き飛ばされた。

 麻理の背後で機関銃の連射する音が響いた。

 麻理は銃弾を受けたが、びくともせずに振り向いた。

 大勢の隊員達が銃を構えていた。

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