第23話

 大野と井沢は警察署で望海を降ろして再び学校に向かった。

 「あのお嬢ちゃんのお蔭でカマキリが集まったがどうするんだ」

 「倒す方法が見つからないと無理でしょうね」

 「銃も兵器も効かないか。映画では水に溺れさせたり派手に爆発するだろうな」

 「大野さんその手の映画の事、結構知っていますね」

 井沢は軽く笑った。

 「あの骸骨、人間を食うとか言ってたな。食ってどうするんだ」

 「さあ、デカいカマキリに訊いてみたら教えてくれるかも知れませんね」

 「ああ、そうだな」

 二人は学校の前に着いた。

 校舎のスピーカーからは音楽が鳴っていた。銃声があちこちから聞こえた。

 「まだ続いているな」

 「そうみたいですね…」

 「よし、突っ込むか」

 「えっちょっと」

 大野はアクセルを踏んで学校に入った。

 隊員が制止するのをよけながら護送車はグラウンドに入った。

 「まだ飛んでいるな」

 大野は車をカマキリの前に止めた。

 「ど、どうするんですか」

 井沢は助手席で怯えながら訊いた。

 「お前の言う通り、あいつに訊くんだよ」

 「何言っているんですか。帰りましょうよ」

 「帰れると思っているのか」

 大野は上を指差した。

 井沢が窓越しに上を覗くと幼生のカマキリが降りてきた。

 「ちょっと、大野さん」

 「さあ、どうするか」

 大野は少し考えた。

 「よくわからんが、やってみるか」

 大野はマイクを持ってスピーカーのスイッチを入れた。

 「ア~ア~、そこの大きいキミ。訊きたい事があるから教えて欲しい」

 「ちょっと何やっているんですか」

 「いいから黙ってろ」

 慌てる井沢を大野は諌めた。

 「グラウンドで何かやっているぞ」

 男の声で宮川は装甲車の外を見た。

 「車をあの護送車の横につけてくれ」

 宮川は男に指示した。

 装甲車がゆっくりとグラウンドに走った。

 「あいつと話をするのか」

 運転席の男が呆れながら言った。

 「さあな」

 宮川は左肩を押さえながら様子を見た。

 「私は抵抗しない」

 「ああ~映画で大人しく殺される流れだ。俺、死ぬのか」

 マイクで話す大野の横で井沢は頭を抱え込んだ。

 後ろからエンジン音がして井沢は顔を上げた。隣に装甲車が止まった。

 装甲車から宮川が出てきてドアをノックした。

 井沢が車のドアを開けた。

 「何をやっているんだ」

 「あのカマキリと話をしたいそうです」

 井沢は呆れて言った。

 「大人しくしているから攻撃はしてこないな」

 「そうみたいですね」

 二人が話をしている間も大野はマイクを通して話した。

 「キミが人間の言葉を理解しているのはわかっている。だから私にキミの言葉を聞かせてほしい」

 大野の声に反応するかのように巨大なカマキリが降りてきた。

 長い鎌で車体を擦りつけた。車体を擦る金属音がした。

 「ちょっと失礼するよ」

 宮川は車に入ってドアを閉めた。

 「何をやっているんでしょうか。やっぱり食う準備ですか」

 井沢は震えた声で言った。

 「何かを探しているのか」

 宮川は呟いた。

 「うん?探すって何をだ」

 「あなたの言葉を理解したから伝える手段でしょう。話せないようだから電波を使うとか」

 「無線か…」

 天井辺りで擦れる音が止まった。

 「井沢、無線のチューニングできるようにしておけ」

 「はい」

 大野の指示で井沢は車内の無線機を操作した。

 「本部、こちら宮川。警察無線を使って敵と交信する模様。そちらで傍受をお願いします」

 宮川は無線機を持って話した。

 「おい、怪我をしているようだが大丈夫か」

 大野は宮川の左肩の血を見て言った。

 「ああ。女がカマキリに変異してやられたよ」

 「何だと!」

 「なぜかわからないがな。宮川です。よろしく」

 「大野だ。こっちは井沢だ。よろしく」

 挨拶を交わしていると無線機からキーンと太い金属音が聞こえた。

 「もう少しで合いそうです」

 「あいつがお前を見ているぞ。早くしないと食われるぞ」

 「やめてくださいよ」

 大野は井沢をからかった。

 「しかし本当に交信できるとは」

 宮川はこちらを見ているカマキリを見ながら呟いた。

 「ああ、男のカマキリが喋っていたからな。その変異とやらをしたヤツが」

 「そういう事か」

 「合いました」

 井沢が言うと二人は無線に目を向けた。

 「本部、チューニング完了。周波数は…」

 宮川は無線機で話した。

 「私は…魔界から来た…人間を食う為に」

 スピーカーから女の声がした。

 「人間がお前の食料なのか」

 大野が訊いた。

 「他の魔物が少なくなって食料が減った。人間はいくらでもいるからな。味はまずいが」

 「そりゃそうだろう。今の人間の体は化学物質まみれだ。食うとお前も死ぬぞ」

 カマキリの言葉に大野は答えた。

 「そうだ。私もじきに死ぬ。だから人間の体をした私の子孫が必要になった」

 「自分の子孫を残す本能か」

 宮川は呟いた。

 「私の子が目覚めるまで私はお前達を殺す」

 無線が切れた。

 「やばいぞ!」

 大野が叫んだ。

 「だから言ったでしょう」

 井沢が怒鳴った。

 「本部、作戦開始します。大野さん、車をバックさせて」

 宮川が無線機を片手に持ったまま車を出て装甲車に乗った。

 周囲から隊員達が集まって来た。

 「何だ…」

 大野は様子を見ながら車をバックした。

 「何か撒いているぞ」

 隊員達が幼生のカマキリに何かを吹き付けた。それと同時に母体のカマキリの両手をワイヤーで引っ張った。

 あちこちで火炎放射器の炎が子供のカマキリに向けられた。

 カマキリの群れが炎に包まれた。

 「ほお、チビを焼くか。あのデカいのはどうするつもりだ」

 大野は車から様子を見た。

 「でも燃えないでしょう。あいつら」

 「ああ、だが動きは止まったな」

 「目的はデカいのですか」

 二人が話しながら見ていると宮川が出て来た。

 「大将のお出ましだな」

 大野はにやけながら見た。

 暴れるカマキリの背後から宮川が飛びかかった。

 首を押さえてカマキリの口を開けようとした。

 「なるほど。そういう事か」

 大野はアクセルを踏んだ。

 「今度は何をするんですか」

 井沢は呆れながら言った。

 「大将、チビのカマキリが来るぞ」

 カマキリの前に車を付けてマイクで大野は叫んだ。宮川は大きく手を上げた。

 後ろで爆音がした。

 次々と幼生のカマキリが吹っ飛んだ。

 「あれって…」

 「戦車だな」

 「もう戦場だ…」

 燃えるカマキリの群れが戦車の砲弾で吹っ飛ぶ光景に井沢は呆然とした。

 「運転を任せる。俺が乗ってきたらすぐにバックしろ」

 大野はシートの後ろからライフルを取り出した。

 「ちょっと大野さん!」

 井沢が声を掛ける間に大野は車を出た。

 「早くしないとチビ達が戻ってくるな」

 大野は巨大なカマキリの前に立った。

 暴れるカマキリの首を右手で持って宮川は口を開こうとした。

 「くそっ、やっぱり固いな。」

 宮川は左手を大きく振った。

 カマキリの両腕を二人がぶらさがるように押さえた。

 「やっと上半身が固定できたな」

 大野は銃口を構えながら呟いた。

 宮川が両手でカマキリの口が開いた。

 大野は引き金を引いた。

 銃声が響いた。

 「何だ!」

 すぐ近くで聞こえた銃声に宮川は驚いた。

 口の中に銃弾を受けたカマキリの頭がぐったりした。宮川の目に銃を構えた大野の姿が入った。

 「なるほど。やるな」

 宮川は大野に手を上げて前に指を差した。

 大野が車に乗ってバックしたのを見て宮川は腰の手榴弾をカマキリの口に突っ込んだ。

 「くたばれ!化け物」

 宮川は手を振って飛び降りた。周りの隊員も離れた。

 カマキリの上半身が爆発した。幼生のカマキリの動きが止まった。

 「やったな」

 「ええ、片付きましたね」

 爆撃が続くグラウンドを護送車はゆっくり走り抜けた。


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