第21話
大野は護送車でカマキリの群れに体当たりした。
「だめだ。効かない」
「あいつらの方が固いですね」
「こいつもいつまで持つかわからんぞ」
護送車をジグザグに運転しながら大野は井沢に言った。
「二十号車。潮凪高校へ女子生徒の保護に向かって下さい。名前は高橋望海…」
無線で大野達に指示が来た。
「どうしてこんな時に」
「とりあえず向かいましょう」
大野はUターンして学校へ向かった。
「おい、開けるんだ!」
宮川は放送室のドアを叩いた。
「よくわからないけど、これでいいのかな」
放送室で貼り紙と機材のボタンに貼られたシールを何度も見ながら望海は機材を操作した。
「おじさんはみんなを逃がして!」
望海は大声で叫んだ。
「そんな事やったら君が死ぬんだぞ」
「パパとママが死ぬよりマシよ!」
望海は操作しながら叫んだ。
「そうよ。みんな死ぬよりマシよ…」
望海は目を閉じて呟いた。
「早くしないとパパもママも死んじゃう…」
望海は焦りながら操作した。
「さよなら。パパ、ママ」
望海は機材のボタンを押してCDを再生した。
大野達の護送車が校門の前に着いて車を降りた。
「警察だ。生徒の保護に来た」
「お疲れ様です。今呼んで来ます」
隊員が振り向いた時、校舎のスピーカーから音楽が流れた。
「何だ。一体…」
大野は校舎を眺めた。
「大変です。生徒が放送室に籠って!」
隊員が大野達に言った。
「何をやってるんだ。馬鹿が」
大野は舌打ちした。
「急いで下さい。あいつらが音に集まって来ます」
「何だと!」
校舎の周りが慌ただしくなった。
「くそっ、行くか」
大野と井沢は校舎に向かった。
窓ガラスを破って麻理の部屋にカマキリが飛び込んでいた。
「いやっ、来ないで!」
麻理は物を投げながら逃げたが、テーブルに足をぶつけて転んだ。
カマキリの鎌が目の前に振り下ろされようとした時、カマキリの動きが止まった。
手を顔で押さえながら「えっ何?」と麻理は呟いた。
顔を覆った手を鎌がゆっくり触れた。カマキリが顔を近づけてきた。
麻理は「ひっ」と声を上げた。
カマキリは攻撃を止めて窓の外に出て行った。
「助かったの…」
壊れた窓を見ながら麻理は呆然とした。
「くそっ、どこだ」
大野達は学校を走った。校内も激しい音楽が鳴り響いていた。
近くで男の声が聞こえた。
「おい、開けろ。開けるんだ!」
大野は宮川を見つけた。
「どうしたんだ」
「この中に女子生徒が」
「三人でぶつかるぞ。せいの!」
三人でドアに何度か体当たりした。ドアは壊れたがテーブルが積んであった。
「くそっ!」
大野と宮川は机を押し倒しながら部屋に入った。
望海が椅子に座って泣いていた。
「ここに化け物が集まれば、みんな助かるの」
「ああ、そうだな。君も助かるんだ」
宮川は望海を抱きかかえた。
「外に行くのでこの子をお願いします」
宮川は大野に望海を引き渡した。
「わかった。化け物退治は頼んだぞ」
大野は宮川に声を掛けた。宮川は頷いて走って行った。
「さあ、出るぞ。時間がない」
上の階で窓ガラスが割れる音がした。
大野達も急いで校舎を出た。
「うわあ、これはまずいな」
カマキリの群れがスピーカーの周りに集まっていた。数匹が周囲の窓に突っ込んだ。
「スピーカーに集まっている間は大丈夫でしょう。急いで離れましょう」
井沢は走りながら言った。望海は無言でうつむいていた。
三人を乗せた護送車が学校から離れた。
「こちら二十号車、女子生徒の身柄を保護。署に戻ります」
井沢は無線機に連絡した。
「しかしどうするんだ。自衛隊の武器でやれるのか」
「ミサイルでも撃ちこむんですかね」
「どっかの映画じゃあるまいし」
二人が話しているとまた無線機で指示が来た。
「対象物が移動を開始。商店街に向かっている模様」
「それだけかよ」
井沢は呆れた。
「自衛隊の動きを追えばいいだろう」
「えっ追うんですか。この子は?」
「そうだったな。署に一旦戻るか。ライフルも積んだ方がいいな」
大野は望海を横目に見ながら言った。望海は黙ったままだった。
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