第15話

 夕方過ぎた頃、マンションから麻理がスーツケースを押して出て来た。

 「急に帰れって言われても一人暮らしだから余計危ないのに…しかも明日休みってどういう事よ」

 麻理はぶつぶつ言いながらタクシーが来るのを待っていると携帯電話が鳴ってバッグから取り出した。

 「ああ、お姉ちゃん。悪いわね。もうすぐそっちに行くから…お姉ちゃん?」

 携帯電話にノイズが入って姉の声が聞こえなくなった。

 「もうどうなっているのよ。そうだ、メール」

 麻理は携帯電話の画面を見ながらメールを打って送信した。

 「圏外で送信できませんって…どういう事?」

 麻理は画面を見て不審に思っているとタクシーが来た。

 「江尾市までお願いします」

 荷物を抱えて乗り込みながら麻理が運転手に言うと、

 「今、隣町へ行く道が封鎖されて行けないんだ」

 運転手が手を振りながら答えた。

 「そうなの?何で?」

 「さあ、警察が通行止めにしているそうだよ」

 「う~ん…取りあえず行ってみて下さい」

 麻理が答えると運転手は「はい」と不満げに答えて車を出した。

 国道に出ると渋滞していた。

 「やっぱりみんな同じ事考えているんだな」

 運転手の呑気そうな答えに麻理は少し苛立った。

 「すみません、ここで降ります」

 麻理は代金を払ってタクシーを降りた。

 「全く、何なのよ」

 麻理は怒りながらスーツケースを引いて車道の脇を歩いた。

 二十分程歩いてヘトヘトになりながら麻理は町の境に来た。

 背広姿の男達が道路を封鎖していた。

 「すみません。江尾市に行きたいんですけど」

 麻理は長身の男に話しかけた。

 「申し訳ないのですが只今封鎖しているので行けません」

 「封鎖ってどういう事ですか?」

 「この町で伝染病が発生したので住民の方は外へ行けません」

 男の素っ気ない言葉に麻理は、

 「伝染病なんて知らないわ。通してよ!」

 怒って男の横を過ぎようとした。

 「だめです!」

 「何がだめなのよ!どきなさいよ!」

 麻理の怒りが爆発した。

 「そうだ、何だよ。伝染病なんて知らないぞ」

 後ろにいた若い男も怒鳴った。

 背広姿の男が笛を吹いた。

 物々しい防護服を着た集団が近づいてきた。

 「ご覧の通りです。検査する必要があるので連絡があるまで自宅で待機して下さい」

 「ああもう、わかったわよ!」

 麻理は怒って引き返した。

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