第8話
海沿いに広がる潮凪町…
この町にまた夜明けの日差しが広がった。東の空は金色に染まり雲が輝く。
それは当たり前の夜明け。それは当たり前の一日の始まり…
漁港のある町だけあってまだ六時前なのに車の行き来する音があちこちから聞こえる。
山の手には閑静な住宅街が並ぶ。数年前から造成されたベッドタウンでショッピングセンターも出来た。
古くからある海沿いの民家と国道を挟んで山の手にある新興の住宅街では当然住民の年代も考え方も違う。未だに交流が少ないのが現状だ。
辺りがすっかり明るくなった頃、山の手の住宅街にある二階建ての家から制服を着たショートカットの高橋望海が出て来た。
望海は数人の近所の子供達と待ち合わせて集団登校していた。
「ああ、いつまで続くのかな」
望海の友達の阪下香奈が気だるく呟いた。
「仕方ないよ。人殺しがまだ見つかっていないし」
「そうだけど、何でこんなガキ共と一緒にぞろぞろ歩かないといけないのよ」
香奈の言葉にランドセルを背負った少女が歩きながら、
「あ~あ、こんなおばさんと一緒に歩いていたら腰が曲がりそう」
と大声で言うと他の子供達が笑った。
「このクソガキ、相変わらず生意気なんだから」
香奈は唸るように言った。
「まあまあ、仕方ないよね」
望海は愛想笑いで言った。
「でもさ、今までこんな事なかったのに…急にいなくなった人もいるらしいし、何だか怖いわ」
香奈が辺りを見回しながら言うと、
「おばさんの顔の方が怖いけどね」
とまたランドセルを背負った少女が言った。
香奈と少女の口論をよそに望海は黙々と歩いていると田園の一角に青いシートが張られているのが見えた。
「あれ何かしら。警官もいるわ」
望海は香奈に話しかけた。
香奈は「えっ?」と田園の方に視線を移した。
「また事件かしら」
香奈の不安な呟きに望海は頷いた。
子供達と別れて学校の敷地に入ると、教師達がぞろぞろと校門へ歩いて行った。
「おはようございます」
望海が担任の杉坂に挨拶すると、
「おう、おはよう」
杉坂も明るく挨拶した。
「何かあったんですか?」
「ああ、ちょっと事件があってな。とりあえず教室で待っていてくれ」
香奈の問いに杉坂は答えて校門へ急いだ。
「いやだ、ちょっと何かしら」
香奈はまた不安そうに呟いた。
ホームルームで担任の杉坂が今日の授業は午前中までで昼は集団下校するように言うと教室内で「やったあ」と男子生徒の声が飛び交った。
「ああ、全くガキよね。塾までの時間どうしようか」
冷めた香奈の呟きが聞こえて望海は苦笑した。
一時限の授業が始まって望海は窓の外をぼんやりと眺めていた。
漁港付近の家並みの空を何かが飛んでいるのが見えた。
晴れた空に屈折した光が時々輝いていた。
(何かしら、綺麗…)
望海の視線の先のその輝いた物はゆっくり繁華街に降りた。
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