第7話
田園が広がるあぜ道を長い髪の女が一人で歩いていた。
辺りは暗く静まり返っていた。
女が携帯電話の画面を見ながら歩いていると、
「あの、すみません」
急に背後から男の声がして思わず「ひっ」と声にならない悲鳴を上げた。
恐る恐る女が振り向くと黒い服を着た男が立っていた。
「ちょっと、脅かさないでよ。何の用ですか」
女が恐れと驚きの表情を隠さずに訊くと男は、
「交番はどこにありますか?」
と暗闇で顔が見えないまま答えた。
「ああ、それは…」
女が教えると男は「どうも、ありがとうございます」と抑揚のない声で答えてあぜ道を歩いて行った。
「全く…びっくりしたわ」
女はぶつぶつ言いながらまた歩き始めた。
女は背後から弱い風を感じて振り向いた。
闇に沈んだ田園が広がっていた。
携帯電話が鳴った。
「あ、もしもし…うん…」
女が電話を耳に当てて話し始めた。
女の長い髪がブンと風で吹き上げた。
「えっ?」
女が呟いた。
右手に持っていた筈の携帯電話が無くなっていた。
女は右腕が無いのに気付いた。血は流れていなかった。
足に何かが引っ掛かった。
女が見ると携帯電話を持っていた右腕が落ちていた。
右手がしっかり携帯電話を握りしめていた。
右の胸辺りが押しつけるように苦しくなってきた。
「い、いやああああああ」
女の悲鳴と共に右肩から痛みとしびれが体を通り抜けた。
切り口から右の胸にかけて痛みだした。
そして心臓の脈打つ感覚が全身に伝わりだした。
右肩から血が溢れだした。女の目がもうろうとしてきた。
女がバタンと膝を崩して座り込んだ。
背中から鎌のような物が腹から飛び出た。
腹から出た鎌は血に染まっていたが、すぐに消えた。
刃の表面から血を吸い取っていた。
女はただの肉塊に変わった。
暗闇の中でその何かはバリバリと音を立てながら覆いかぶさった。
そして肉塊を持ち上げ、長い髪が垂れ下ったまま飛び去った。
暗いあぜ道には赤いハンドバッグと携帯電話を握りしめた女の右腕が無造作に残った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます