第6話
「これはどういう事でしょうか」
現場で井沢が口を押えながら呟いた。
「ああ、こっちが聞きたい位だ」
大野が顔をしかめながら答えた。
血だらけの交番の床に首を切断された二人の警官の死体が並んでいた。
「首をスッパリ切られているな。凶器は何だろう」
「さあ、ここまで人間の首を綺麗に切れる刃物なんてあるんですかね」
二人は小声で話しながら室内を見回した。
「公園の事件がまだ解決していないのに仕事が増えて大変だな」
大野はぼやいた。携帯電話が鳴り大野が取り出して話し始めた。
「うん、そうか。名前は、スエナガハルヤ?あいつかよ。わかった。今から行く」
大野は舌打ちして電話を切った。
「どうしたんですか?」
「ああ、目撃者がいたからちょっと聞いてくる」
「知り合いですか」
「まっ、そういうところだ。あと頼むぞ」
大野は井沢の肩を軽く叩くと交番を出た。
港の倉庫の前で大野が車を降りた。
治也が澤野と立っていた。
「どうも待たせたな」
「ふん、正義の味方さんか」
治也の皮肉交じりの言葉にその場の空気が重くなった。
「まあ、そう嫌な顔をするなよ」
「いじめっ子が刑事になるなんて世も末だな。同級生を殺し損なって…」
「その話は後にしろ」
治也の話を遮るように大野はきつい口調で言った。
治也は「ハイハイ」と鼻で笑いながら答えた。
「あの、昨日の事をもう一度話して頂けませんか」
澤野が申し訳なさそうな表情で治也に頼んだ。
「昨日の晩、交番に黒い服を着た若い男がいたのを見た。俺の家は近所だからな。知っているだろう。大野刑事なら」
「どんな男だったんだ」
投げやりな口調で話す治也に大野が訊いた。
「ありふれた顔で若かった。あと小柄だったかな。そんなところ」
治也が答えると大野が「ああ、すまなかった」と答えた。
「じゃあ仕事があるんで」
治也は倉庫に入って行った。
「あいつと何かあったのか」
澤野が大野に訊いた。
「昔の話だが色々な」
大野は倉庫を見ながら答えた。
「小柄な男が首をスッパリか…」
「殺してから切ったのかも知れないな。解剖の結果を待つか。俺は現場に戻る。聞き込みを頼むぞ」
大野は澤野に指示すると車に乗り込んだ。
「ああ気分が悪い!」
冷気の漂う倉庫で治也は大声で叫んだ。
「全く何だよ。気に入らねえな」
箱を積みながらもぶつぶつと治也は呟いた。
「死んじまえ!クソババア~!」
麻理は金網のフェンスを叩きながら屋上で叫んだ。
雨上がりの曇り空の下、麻理は金網から手を離した。
「ああ、すっきりした」
振り向くと空を横切るぼんやりした歪みが見えた。
「まただわ。何なのあれ…」
微妙な空間の歪みを生じたそれは町の方向へ飛んで行った。
「ちょっと怖いわ」
「人殺しなんて何年も起きなかったのに、しかも立て続けになんて…」
女性社員達のひそひそ声が聞こえる職場の横を治也は通り過ぎて在庫管理部の部屋に入った。
「今日の配送の報告書です」
治也が書類棚に置いた。
「ああ、お疲れ。あっそうそう末永さん、警察が何か聞きに来たんだって?」
席で作業をしていた峰崎が治也に訊いた。
「ええ、昨日の事件の聞き込みらしくて」
「ああ、警官の…」
峰崎は少し間を置いた。
「俺もあの近所に住んでいるから怖いよな」
「ええ…、それじゃ」
治也は愛想笑いで答えて部屋を出た。
仕事帰りに商店街に寄った麻理は事件のあった交番の前を通った。
(やだ、怖いわ)
交番の前は立ち入り禁止のロープが張ってあった。
「こういう時ってこの辺のパトロールはどうするのかしら?」
ふと思いついた疑問を呟いて麻理は空を見上げた。
オレンジ色の空に雲が赤黒く染まっていた。
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