第5話
翌朝、公園にパトカーと救急車が止まっていた。
「う~ん…これは随分でかい刺し傷だな」
大野寛二は若い男の死体を見て呟いた。
「大野さん、身元が分かりました。坂下健一、二十一歳…」
大野より若い風貌の井沢が男の身元を説明した。
「この辺りに住んでいるのか。上半身裸という事は変質者か?」
「大野さん、公衆便所の脇に女性用のハンドバッグが落ちていました。免許証が入っていて名前は水沢結菜、二十三才です。今、電話していますが繋がりません」
大野と同じ年位の澤野が話し掛けてきた。
「上半身裸の男にハンドバッグを落とした女…何か繋がりがあるかも知れんな。取りあえずこの辺りと男と女の家の近辺を聞き込みして署に戻ろう」
大野が指示すると三人はバラバラの方向に歩いて行った。
雨の降る晩、藍色のスカートを履いた女が閑静な住宅街を歩いていた。
「すみません」
背後から男の声がして、女はビクッと立ち止まった。
「何でしょうか?」
女が振り向いた。目の前に男が立っていた。
傘で顔は見えなかった。
「あの、交番はこの先でしょうか?」
黒い服を着た男が女に訊ねた。
女はホッとした表情で、
「いえ、手前の角を右に曲がって…」
と丁寧に道順を教えた。
男は「ありがとうございました」と礼を言って角を曲がって行った。
女はまっすぐ道を歩いていると傘を何かで擦る音がした。
女は「えっ」と見上げたが特に変わった事もなかった。
少し歩くとまた傘を擦る男がした。
街灯を過ぎて上を見ると細長い影が傘に映った。
女は「ひっ」と声を上げて傘を落とした。
何かが身を乗り出して女の上に覆いかぶさってきた。
何かが女の背中に鎌を刺した。
女は小さく「うっ」と唸って表情が固まった。
手足をばたつかせた女の体は仰向けに持ち上げられてVの字に曲がった。
頭のようなものが女の首筋に近づくと女の体がガクンと力が抜けたように動きが止まった。
女の体がただの肉塊になった。
肉塊を長い鎌状の手で掴んだそれは腰の辺りから羽根を広げて飛んで行った。
誰もいなくなったその場所には白いハンドバッグが水溜りに半分沈んでいた。
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