第2話

 海辺に巨大な堤防と桟橋が伸びた港町で中年の男が鼻唄を歌いながら小型トラックを運転していた。

 男は末永治也、四十過ぎた独身男である。

 水産加工会社に勤めており、毎日決まった時間に漁港の倉庫と会社を往復して配送作業をしていた。

 治也が倉庫に入った。中は巨大な冷凍庫だった。

 倉庫から魚の入った箱を持ち出して車に積み込む作業を五往復程して倉庫の扉の鍵を閉めた時、携帯電話が鳴った。

 電話は会社の担当者からで更に魚を持って来るように言われた。

 治也は電話を切って軽く舌打ちしながら扉を開けて倉庫に入った。

 頼まれた魚が入った箱を積み重ねていた時、天井からドンと音がした。

 治也は箱を抱えて外に出て屋根を見上げた。


 屋根の上で巨大なカマキリのような物が羽根を広げて空に同化して消えていった。

 「何だあれは!」

 治也は思わず叫んだ。

 微妙な光の歪みを残したままそれは青空の彼方に飛び立った。 

 

 日付が変わった晩

 住宅街の路地を太った背広姿の男がふらつきながら歩いていた。

 平日の夜中だけあって辺りは限りなく静寂に近い空気に沈んでいた。

 男は黒革のカバンを下げてゆっくりと歩いていた。

 小さな街灯に虫が群れて飛んでいた。

 男は街灯から外れて飛んでくる虫を手で払って歩いた。

 次の街灯を通り過ぎた。男はまた顔に飛んできた虫を手で払った。

 次の街灯には虫がいなかった。男は気にせず歩いた。

 次の街灯に差しかかった時、黒い影が大きく男に被って来た。

 影は大きく手を伸ばして鎌のような形になった。

 影が男を覆うように伸びた。


 男は振り返った。


 男の体が宙に浮き九十度回転した。

 そして腰の辺りがへの字に曲がった。

 男の口から泡がこぼれた。

 そして体がドサッと地面に落ちた。

 三角形の半透明の顔が男の首筋に噛みついた。

 男の体がビクンと震え全身の力が抜けたようにぐったりとなった。

 男が肉塊に変わった瞬間だった。

 肉塊の胸と腹に鎌状の手を刺した。血は流れなかった。

 半透明の物体は肉塊を持ち上げて闇夜に飛んで行った。


 男のカバンが無造作に残った。

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