クリスマス
12月24日、6時頃。俺を含む5人の男女が幼稚園の一室に集められていた。
「クリスマスだー!」
「YEEEEEEEAR!」
川良と赤仁辺が同時に叫び、持参したクラッカーを鳴らす。それにキレた谷が近くに置いてあった、幼稚園側が余らせたクラッカー手に取りを二人に向けた。
「おい、空気読めアホ共。今はまだ騒いで良いタイミングじゃないだろ」
「はい」
「サーセン」
「おい谷、クラッカーを人に向けるなよ」
鼓膜破れることだってあるんだから、注意しろよな。
「そうだよ、陽子ちゃん。危ないよ」
「そうだそうだ」
「危ないぞー」
「馬鹿二人は黙っとけ」
谷は威嚇射撃のようにクラッカーを天井に向けて撃ち鳴らし、川良と赤仁辺を黙らせた。手慣れてる……。
「今日は幼稚園の子供達にプレゼントを配るんだから、元気は本番まで取っておけ」
「おいおい、姐さん、俺っち達がここで騒いで力尽きるとでも?」
「あたいらをなめてもらっちゃあ困るぜ」
「いや力尽きるだろ。去年のクリスマス会で三十分も持たなかった奴等がなに言ってんだよ。後変な一人称やめろ」
「俺っちー」
「あたいー」
「あーもう、はいはい」
谷は川良と赤仁辺の頭を指で叩きながらパイプ椅子に座らせる。
「っくく……」
「ふふっ……」
俺と菜月が3人のやり取りに思わず笑ってしまうと、谷が無言で睨んできた。俺はすぐに笑いを止めたが、菜月は肩を震わせながら吹き出すのを堪えている。
あー、これは……。
なにか予感がして川良を見れば、元気よく右手を挙げていた。
「はい、谷先生! ちょっとサンタの練習して良いですか?」
「お、やけに熱心だな。やってみろ」
「わん!」
「お前それトナカイだろ」
「ぷはーっはっ!」
菜月が変な笑い声を上げた。
「あー、じゃあわたしトナカイやる!」
「駄目だ」
「なんで!?」
と言うか川良も赤仁辺も、既に元気発散しまくってるんだけど、大丈夫なのか?
…………。
「眠いっす……寝てないっす……」
「くかー……」
大丈夫じゃなかった。後三十分後に幼稚園児の前に登場する予定なのに、この2人は着替えもしないで寝て……ん?
「すぅ……すぅ……」
菜月の寝顔ぉ!? ミニスカサンタ姿でぇ!? くそ、右手が勝手に写真を撮りまくってしまった……! いや待て、いつの間にか動画まで撮り始めている!? ナイス俺ェ!
「……ゆうちゃんなにやってんの」
「はいすいません菜月の寝顔録画してました許してください!」
慌てて動画を保存して振り向くと、谷が白けた目で俺を責めてきた。
「いや普通に駄目だろ」
「うん、まあ……うん」
今のは流石にキモかった。自分でもストーカーぽいなって一瞬思った。
多分谷が止めなければ、俺は菜月が起きる瞬間まで録画してただろう。キモい。
「見逃してくれない?」
「なに奢ってくれる?」
「なんでもひとつ」
「よっしゃ! 七面鳥の丸焼きな!」
「谷のそういうとこ好き」
「アタシも大好き」
やっぱ持つべきは悪友だよな。
「でも盗撮は犯罪だからな」
「はい」
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