危険人物R
私は、智秋くんが、従兄が好きだ。
そのことを初めて
私と仲良くしてくれる、二人の
「……フラれた」
乙木くんは歩道のど真ん中で倒れ伏しながら、機械的に告げた。それに対して縁石に腰を下ろす陽子ちゃんが気まずそうに答える。
「見てた」
「しかもいとこのお兄ちゃんが好きだって返された」
「聞いた」
「知ってた?」
「知らなかった」
「隠してたんだから、知られてたら困るよ……」
おかしなことだって、自分自身わかってるんだから。
「……いや、それは違うぞ菜月」
「え?」
見れば、乙木くんは手を突いて起き上がる最中だ。ゆっくりとした動作から、どこか物悲しさを感じる。
「誰かを好きになる気持ちが恥ずかしいのはわかる。恥ずかしいことを隠しておきたい気持ちになるのもわかる」
乙木くんは涙が乾いた跡を顔に刻みながら、震える声で私に告げる。
「でも、恋に是非も善し悪しもないんだよ! 菜月は誰に恋したっておかしいことなんてないんだよ!」
まるで、自分に言い訳するような、
「乙木くん……」
まるで、こんな私を全肯定しようとするような。
「急に変なスイッチ入ったな」
「るっせ、俺は菜月が好きなんだってことを再確認出来て、ちょっと嬉しいんだよ」
「ちょっとどころじゃないだろ」
そう言って、陽子ちゃんはけらけらと笑う。
「うるせーよ」
そう言って、乙木くんは照れ隠しするように笑う。
……あ、羨ましいな。
なんて。
「とにかく、」
改めるように、乙木くんは私に向き直る。
「俺は菜月が好きだ。恋してるし、愛してる」
改めるように、繰り返される。
「えっと、だから……」
「だから、俺は菜月の恋を応援するよ」
「……………………ん? ん。 ちょ、ちょっと待ってね?」
なに? 全力で邪魔するんじゃないの? え、だって好きな人が他の人に取られちゃうんだよ? 絶対そんなことさせないって頑張るでしょ。私なら迷わずそうするし。え、それが、え? 応援するの? 馬鹿でしょ? 馬鹿でしょ? ちょっと、なにそれ、なんか、え、え? 私、智秋くんの恋を応援出来ないよ? だって、ずっと私だけ見てて欲しいもん。それに、いくら陽子ちゃんでも智秋くんのこと好きだって言ったら、迷わず消すよ? て言うか、そんなこと言わないと思ってたから陽子ちゃんと仲良くしてたんだよ? え、え、え? どうすれば良いの? 陽子ちゃんのこと消せば良いの? 誰かに取られる前に智秋くんを私の物にすれば良いの? え、ど、どうするの? とりあえず乙木くんを利用することは確定してるとして、え、なに? なんで乙木くんは私のことを応援するんだっけ? あれ? あれー?
「ちょ、ちょっと……あの、乙木くんは、陽子ちゃんじゃなくて、わ、私のこと……が……好き……なん、だよね?」
「おう」
「え、えぇー?」
おかしいなー? 変な女ってレッテルを貼られてもう関わり合いなしってシナリオだったのに、どうしてこうなるのかなー? 義理堅い乙木くんと友情に厚い陽子ちゃんなら私の秘密を隠してくれて、私の残りの学校生活に全く問題のないフリ方だと思ったのになー?
「えと、あの、ね? 私はいとこのお兄ちゃんが好きな変な娘なんだよ? いわばブラコンだよ?」
「なにも変なことはないだろ。俺だってマザコンだったぞ」
「誰でも通る道だな」
「谷もブラコンだったりするのか?」
「えっ?」
ブラコン仲間がここに?
「今はちげーぞ」
「だほっ」
陽子ちゃんに殴られ、乙木くんは地面に伏した。またやってる。
「つーか、ゆうちゃんのくせになにカッコいいこと言おうと頑張ってんの? 聞いてて恥ずかしいんだけど」
「いやお前……え!? 俺のくせにってなんだよ!? 某ガキ大将かお前!?」
「うるせー。まあそんなことより、乗りかかった舟だ。あたしもなっちんのこと応援させてもらうぜ」
「え゛」
変な声が出た。
いや、これは仕方ない。だって、陽子ちゃんが私の応援をするってことは、必然的に智秋くんのことを見るってことで、もしかしたら智秋くんと顔を合わせるかも知れないってことで……。
もし、もし……陽子ちゃんと智秋くんがそういう関係に発展しちゃったら、なんて考えるだけで、私、わたし……。
「でも谷って恋愛経験皆無だよな」
だから怖いんだよぉー! うっかり一目惚れなんてされたら、陽子ちゃんのこと消さなきゃならなくなっちゃうじゃん! 心の準備も出来てないのに、そんなこと……。
痛くしないで出来るかな?
「あ、アタシのことなら心配いらないよ、なっちん。アタシ、年上に興味ないから」
「あ、なら良かったぁ」
それなら、安心して頼れるね。
「じゃあ早速、頼らせて貰おうかな」
「お、なんだなんだ? かかってこい」
「どんなだよ」
二人のやり取りに、とりあえず笑う。
「えっと、あのね? 変なことは言うようだけど、私ね?」
「智秋くんと、喧嘩してるの」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます