第10話 希望
1分ほどでソプラに対する支配は行われ、以前の姿は見る影もない。
まるで日本昔話に出てくる鬼の様な風貌に、シュートは少し遠くで歯をガチガチと鳴らしながら震え、現状に対して絶望を味わっていた。
「ふふふ、すばらしい姿だ。まるで肉体があった頃の我々を思い出すようじゃないか・・・。おい、私がわかるか。」
と元ソプラに話しかける大蛇。
するとソプラであった男は、自分の風貌を少し見て、何度か手を握り直す。
何かを確認したのか、暫くすると「貴様が私を起こしたのか?」と大蛇に問いかけた。
「そうだ、私が貴様を起こしたのだ。」と少し自慢げに言うが、もう反応は返ってこない。
男は両手をじっと見つめ何かを考えているようだった。
反応もしないその男に、大蛇はイラつきを覚えたのか、「おい!!!」と大きな声で呼びかけた、その瞬間男の左手は、ボッ!!と大蛇の腹部に突き刺さり、その勢いで肉片が後方に飛び散る。
腹には大きな風穴が空いており、何が起きたのか分からずに大蛇は固まる。
「な・・・何をする貴様・・・」
絞り出すような声を上げるが、男はその左手で大蛇の顔を鷲掴みにして、自分の顔の目の前まで持ってくる。
「私の名前を言ってみろ。」
そう言うと男は大蛇の左目をじっと見つめた。
「貴様の名前!?そんなものは知らん!くたばれえええええ!!」
口を大きく開け男にかみつこうとするが、一瞬で移動したのか、瞬く間に大蛇の後ろ側に回り込む。
「私の名前を言ってみろ。」
もう一度繰り返す男に、大蛇は恐怖を覚え、「ひいいいいぃぃ!!!!」と悲鳴を上げた。
「貴様ら、耄碌したようだな。己の敵と、仲間との区別も付けられないとは哀れな。」
そう言って右手の拳を軽く握ると、大蛇めがけて軽く振り下ろす。
「貴様ああああぁ!!!まさkぶべらぼっ!!!!」
大蛇が言葉を言い切る前に、男が拳を振り下ろした風圧で、大蛇は粉々に砕け散っていた。
それと同時に辺りには強い風がグアッと巻き起こる。
ボタ・・・ボタ・・・と舞い落ちる肉片の中で、男はゆっくりと手を戻した。
「私の名を忘れるとは、さては馬鹿だな?貴様らに仇なす者、シャイターンの顔を覚えていないか。」
既に息絶えた大蛇に向かってサタンは話しかけるが、もちろん反応はない。
頭をポリポリと掻き、ばつの悪そうにしていたが、「貴様が脆すぎるのが悪い!!」と死体めがけて指をさす。
それを見ていたシュートはもちろん事態が収拾できずにいたが、自分が呼吸をしていなかった事に苦しさから気付き、急いで深呼吸をする。
スーハーと大きく息を吸っていると、いつの間にか目前にはシャイターンと名乗る男が立っていた。
「おい貴様、名前を何という。」
低く重い声でシュートに訪ねる。
ゴクリと生唾を飲みながらも「俺の名前は、シュートって言います。」
と、相手に対して気に触ることがないよう、丁寧に答える。
「シュートか、いい名だ。よしシュート、私はまた暫く寝ることとする。私の力が必要になれば、また呼ぶがいい。」
そう言うと、シュートの頭をぽんとたたき、星の雫は再び光り始め、シャイターンの身体は徐々に結晶の中へ回収されていく。
「一つだけ言っておくが、私はお前達の敵ではない。恐らく、これから志を共にすることとなるだろう。」
それから10秒ほどすると、ソプラの身体は元に戻り、星の雫は首元のネックレスとしてきらりと光る。
シュートは何が起きたかわからずに、暫くそれを眺めていたが、ハッと我に返りソプラに駆け寄る。
「大丈夫か!!ソプラ!!おい!!」と必死に揺らすが、全く反応もない様子に焦りを覚える。
しかし、胸がかすかに膨らみ、呼吸をしているのがわかり安堵する。
「あれ・・・身体、痛くねぇや。」
気持ちが落ち着いてから、やっと痛みが無い事に気付いたシュートは、頭に?を浮かべながらも、さっき起こった出来事の方が衝撃的だったなと、理由を探すことを諦めた。
ソプラが生きている事が分かると、シュートは背中にソプラを背負い、再びエレベーターまで歩き始めた。
その後は生き物達に遭遇することはなく、30分ほど歩いたところで、目前に炎が揺れている事に気付く。
地上のエレベーターの入り口には、常に5人の団員が警備をしており、獣が寄ってこないように松明を灯している。
「おーい!!」とシュートが声をかけると、団員達は驚いた顔をして駆け寄った。
「君!!何で地上になんか居るんだ!!」強い口調でシュートに話しかけると、シュートの肩に手をやる。
木上から落ちたことを伝えると、納得した表情で、よく助かったなぁと皆驚きの声を上げた。
背中に背負ったソプラを代わりに背負ってもらい、エレベーターを待つ。
1分程で木上から来たそれに乗り込み、二人はウッドスペースへ戻っていった。
※シャイターン・・・アラビア語、サタンの意を指す
木漏れ日は時として まっさん @massakasu
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