第8話 赤い光の瞬き

息を殺して10分ほど歩くと、どこからか水の流れる音が聞こえてきた。


先には小川が流れており。

「喉かわいたな。」とシュートが提案し、水分休憩をすることになる。


「教科書では見たことあるけど、これが川って言うんだね。」と興味津々で言うソプラ。


水の確保に関しては、木上でも問題なく行うことができる。


大きな朝露を集めたり、葉から採取したり、雨水を溜めておいたりと方法は様々。


シュートは水を手ですくい上げ、顔にバシャっとかける。


「うひーつめてー。」とびっくりするのを見て、ソプラがはははと笑うと、同じく水をすくい上げ、少し口に含む。地上で飲む水はなぜか新鮮な気がして、思わずうまい!と声を上げた。


二人は小川の横に座り、「あーあ、帰ったらかぁちゃんにどやされるなー。」とシュートがぼやく。


「そうだね。地上に行ったなんて話したらさらに怒られるかも。」

ソプラもクスクスと笑う。


「腹も減ったし、採った実でも食うかぁ。」


「え、いいの?売って弓のお金にするんじゃ・・・」と顔を覗き込むと、


「いいっていいって!!早く食おうぜ。」笑顔で言うシュート。


きっと僕を励ますために気を遣ってくれたんだ、と気づき、言葉を飲み込む。


「じゃあ食べようか!」


ソプラはリュックから実を取り出し、腰に付いていたナイフで、堅い表面に少し傷を付けると、今度はナイフを突き立て、実をパカッと割る。


すると中からは赤い果肉の詰まった美味しそうな部分が顔を覗かせ、甘い匂いを醸し出す。


二人はそれを見てゴクッと喉をならし、切り分けた半分をシュートに渡した。


「うまそー!!」


シュートはそう言いながら実にかぶりつくと、赤い果汁があふれ出し、口の中に甘さが広がる。


思わず笑みがこぼれ、それを見ていたソプラもたまらずかぶりつくと、同じように笑みを浮かべて実を味わった。


自然の恵みに舌鼓をうち、雑談をする。


しかし、二人は大切な事を忘れていた。


ここは地上だと言うことを。


初めての地上に、野生の動物たちの恐ろしさを知らず、警戒を怠ったのだ。


その変化に気付いたのは、まずシュートであった。


バッと弓を構え、いきなり臨戦態勢になったシュートにソプラは驚くが、次の瞬間その理由を理解した。


小川の反対側では、ゆうに20メートルの長さはありそうな大蛇が、水をのみながらこちらを睨みつけていたのだ。


それを見てソプラもすぐに腰を上げ、戦う体勢をとる。


威嚇して追い払えないか・・・というシュートの思惑は、次の瞬間無に帰った。


「貴様ら、どこから来た人間だ。」


二人は頭のなかに?を浮かべたが、明らかに正面にいる大蛇が自分たちに語りかけている。


地上の動物は喋るのか?という疑問を持ちながらも、コミュニケーションが取れるなら話し合いでなんとかなるかと思い、「木の上から落ちてきた。」と正直にシュートは返す。


「ククク、人間には多く出会ってきたが、こんな子供達は初めてだ。肉が軟らかくてうまそうだなぁ・・・」


舌をチロチロしながら言う大蛇に、二人は冷や汗を流しながらゴクリと喉を鳴らす。


「待ってくれ、俺たちはうまくないぞ。」というシュートに、「なぜだ、そんなにうまそうな身体をしているのに。」


と丁寧に質問を返してくれる大蛇。


「なぜならば、俺の匂いは臭くて有名だからだ。よく妹には足が臭い、息が臭い、脇が臭いと言われ蔑まれている。どんなに辛い思いをしてきたか・・・」


とあまりにも緊張感のない事を言い出したシュートに、慌ててソプラは付け加える。


「そ、そうだ。しかもこいつの息を嗅いだ動物が、気絶した事だってあるんだぞ!!」


もはや二人は気が動転して、何を言っているのか分からない状態。


ふぅむ・・・と少し考える大蛇であるが、暫くして


「まぁ、お前らのように小さな動物を食べても腹の足しにもならんからな。今回は見逃してやろう。」


と諦めた様子で話すと、首をシッシッと動かし、二人に行くように促す。


よかった・・・と胸をなで下ろす二人は、置いてあった荷物を抱え、早々に立ち去ろうとすると、ソプラの胸元から赤い光が漏れ出し、少し光った。



「待て小僧!!」今日一番の大声を出した大蛇に、二人はビクッとして立ち止まる。


「お前の胸元にあるそれは、何だ。」


先ほどよりも鋭い視線を向ける大蛇に、ソプラはゆっくりとネックレスを取り出す。


赤い星の雫はこれでもかと言うほど赤い光を放ち、二人と一匹を照らした。


それを見た大蛇は目を丸くし、瞳孔が少し開く。


「ついに見つけたぞ・・・」


そう言って暫く沈黙すると、「気が変わった。お前達を食うことにしよう!!」


とさらに大きな声を上げた。


それをきっかけに、シュートは一瞬で弓を構え、大蛇の額に向けて矢を放つ。


鉄板をも貫通する矢の威力であったが、大蛇の強靱な鱗に弾かれ、勢いをなくしてフラフラと落ちる。


ソプラは大蛇の気を引くため、風の力を使い左に飛び上がった。


「こっちだ!」


と誘導するソプラに、「貴様ら人間もそれを使うのか!!面白い!!」とその存在を知るように飛びかかる。


間一髪で避けたソプラであったが、その巨体からは想像できない程の早さで、徐々に距離を縮められていった。


「しょうがない、目を狙うしかないか!!」


そう言ってシュートは弓を構え、照準を合わせる。


ソプラはそれを感じ取ったのか、シュートが撃ちやすい位置まで大蛇を誘導し、右手で合図をした瞬間上に飛び上がった。


視界から突然居なくなったソプラを探す大蛇だが、きょろきょろと顔を動かすも見つける事はできず、しょうがなくシュートに視線を向けるが、時既に遅く、右目の視界は一瞬で破壊された。


ブシュ!!と音を立て、シュートの放った矢は大蛇の右目に突き刺さり、大蛇は「ぐああああああああ!!!」と大きな悲鳴を上げる。


「やった!」と上空からシュートの元に舞い戻って声を上げるソプラと、ガッツポーズをするシュート。


大蛇は暫くのたうち回ったのち、ぐったりと動かなくなった。


「やったのか・・・」


「そうみたいだね・・・


」額の汗をぬぐい、大きく深呼吸をする二人。


「なんで襲いかかってきたんだろうね。」と話すソプラに、シュートは「わからん。」と首をかしげて見せた。




どれ行くか、と背中を向けた瞬間、ソプラは何が起きたかわからないまま、何かに強く締め上げられた。



「うわああああああ!!」


大きな声で叫ぶソプラ。


シュートが目線を向けると同時に、大きく堅い物体に横から殴打され、10メートルほど先まで吹っ飛んだ。


木の根元まで飛ばされ、なんとか意識は保っていたが、どうやら身体の骨が何カ所か折れたようで、激痛が全身を襲う。


顔を上げ、飛ばされた方向を見ると、大蛇がよみがえり、ソプラは強く締め上げていた。

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