第6話 地上へ

小鳥とはもう言えないであろう大鳥が、朝を知らせるためヂュン!ヂュン!と鳴く頃には、ソプラは既に狩りへとでかけていた。


今日はシュートも一緒で、ソプラの首元には赤い光を放つネックレスが。


二人は昨日の帰り際に、食虫植物の群生している場所への狩りを決めていたのだ。


危険ではあるが、食虫するという性質上から、栄養価の高い果物を実らせる事で有名であり、その実は高価で取引されている。


猟団へ入る前に新しい弓がほしいと、シュートがごねた事から話は始まった。



「シュート、今日は夜ご飯おごってもらうからね。」

とソプラは不服そうに言うと、「オッケーオッケー任せとけって。」と軽い言葉を返す。


群生地の少し手前まで行くと、二人は狩りの打合せを始めた。


「食虫植物は、刺激に反応して口を閉じるんだ。俺がこの弓で口の中を撃つと、あいつらは口を閉じて、暫く開ける事はない。その間にお前が幹まで行って、普段は口の下に隠れて実っている実を取るって寸法だ。」


そう自慢げに言うが、「なんだか僕ばっかり危険じゃないかな。」と不満げに訴えかける。


「大丈夫大丈夫。俺の腕は知ってるだろ?」と左手で右手の腕をぱんぱんと叩き、ソプラに準備をするよう声をかけた。


狩り場に着くと、1000体以上の巨大な食虫植物が群生していた。


種類はまちまちだが、口に牙がついたようなものや、ウツボの口のように膨らんでいるものと様々。


昆虫達もB.I後に巨大化した為、匂いにつられて、人間の大きさ程の蠅が何匹か食べられていた。


「いつ見ても禍々しいな・・・」唾を飲み込みながら言うシュートに、ソプラも大きくうなずく。


「じゃあ始めるぞ。」と言うシュートの合図に、ソプラは少しかがみ、第一目標に視点を移す。


シュートが身体より大きな弓を構え、グーッと弦を引くと、鉄の塊でできているようなゴツゴツとした弓は、大きく軋みを上げた。


元々力の強いシュートであるが、自分には一番合うからと、力を強化する星の雫をブレスレットとして身につけている。


その力で放たれる弓の飛距離は凄まじく、約500メートル先にある薄い鉄板を楽々と貫通する程だ。


緊張を感じ取ったソプラはさらに真剣なまなざしとなり、腰を低くする。


ビュッ!!と音とともに弓は放たれ、わずか0.5秒ほどで50メートル先の食虫植物に命中した。


それと同時に大きく開けられていた口がガツン!!と閉じられ、ソプラはスタートを切る。


風の力を使い、3秒ほどで口元まで到達すると、腰に付けてあった少し大きめのナイフで、口の下に隠れて5つほど成っていた実を3つ刈り取り、リュックに入れる。


少し手間取っていると、食虫植物の口がぐぐぐと開き始め、遠くで見ていたシュートは息を飲む。


ソプラは口が開いたのを確認すると、これ以上の採取は無理だと判断したのか、その場を後にしてシュートの元に戻った。



「ごめん、3つしか取れなかったよ。」少し息を切らして言うソプラに、「大丈夫だ。上出来だよ。」と笑顔で返す。


しかし1つあたり100ドル程でしか実は売れる事はなく、弓の値段は約5000ドルもする。


シュートは貯金が2000ドル程度しかなかった為、うーんと唸りながら首を傾けた。


それを見て、「あと2~3回位だったら大丈夫だよ。」とソプラは言うと、「よっしゃ、じゃあ後少しだけやるかぁ!」と意気揚々にシュートは袖をまくり上げた。



もう一度シュートが弓を引き始める。


ソプラは腰をかがめると、シュートはさらに弓を引き、先ほどより少し遠めの目標を狙う。


ビュッ!!っと音がするとほぼ同時に目標へ突き刺さり、植物の口はガツン!!と閉じられた。


音と同時にソプラがスタートし、口の下に着く。


素早くナイフを出したと同時に、後方から大きな叫び声が聞こえた。


「うわああああぁ!!!」ソプラは後ろを確認すると、人間大の蜂が5匹、シュートに襲いかかっていた。


近くに巣があったようで、羽音をブンブンと唸らせながら何度も針を突き立てる。


遠距離に関しては有効な弓ではあるが、近距離に来られてしまうと振り回すしかないのが欠点で、シュートはなんとか身捌きだけで攻撃を避けるが、足下も悪く、目前には大蜂の針が迫っていた。


ソプラはそれを見て引き返すが、次の瞬間シュートは足を滑らし、下方へ落下する。


普段であればロープにかぎ爪をつけた道具で帰還する事ができるのだが、片手には大きな弓を持っていた為、うまくロープを出すことができずにそのまま落下する。


「シュート!!!」とすぐさまソプラは向きを変えてシュートを助けに向かうが、今度はソプラに標的を変更した大蜂の追撃を受け、二人とも木の下へと落下してしまった。


蜂は侵入者を追い払うことが目的だったのか、追っていくことはなかったが、二人の姿はそのまま、光の閉ざされた大地へ消えていった。

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