第5話 満月
店の手伝いも終わり、空が赤く色づいた頃には、街には星の雫を電源とした光が、ぽつぽつと灯り始める。
「みんなお疲れ様。大変だったろう。」
フランはそう言うと、付けていたエプロンを外し、レジの横にあるコートハンガーにそれをかける。
旦那を含め四人でへとへとになりながらリビングに座っていると、フランは皆の頭を一人ずつぽんぽんとたたきながら、「よーし、今日は売上もよかったし、チャイニー料理でも食べに行くかい!」
と両手を腰につき、仁王立ちしながら鼻息をふかせた。
みんなは顔を見合わせ、やったー!と飛び上がり、支度を始める。
近所にあるおいしいと評判のチャイニーレストランへ向かう頃には既に日は落ち、辺りは真っ暗になっていた。
店に着くと、ボディラインのよくわかる服を纏った女の子につれられ席に座り、色とりどりの食事に舌鼓をうつソプラ達。
旦那のソドムはお酒でほろよいになり、店の女の子にちょっかいを出したところで、ピカッとひかった頭をフランにひっぱたかれていた。
満腹になり帰路につくと、飲食店も閉店が目立ち、昼間には賑わいのあった4番街は、夜を迎え静かにたたずんでいた。
ソプラとシュートとリフレには、毎日の日課があった。
それは、4番街を支えている大木の頂上で、日々起きたことを語らう事である。
3年前からソプラが風の力を持つ星の雫を使い、三人で木の上に上れるようになり、頂上で星を見ながら語らうことが、一日の締めくくりとなっていた。
三人は木の上にのぼると、いつもどおりリフレから語り始める。
「今日はソプラのお家を少し片付けてあげたの。そしたらキッチンの陰から食べかけのパンが出てきてね、カビててすんごい臭いだったのよ。これがまぁくさくてくさくて・・・おかげで何回も手を洗うはめになったわ。少しは気をつけてよソプラ。」
そう言うとほっぺを少し膨らませながらソプラをにらむ。
「ごめんごめん・・・」
申し訳なさそうに謝ると、「おまえはソプラの嫁かよ。」とシュートが茶々を入れる。
リフレは顔を真っ赤にしながらシュートをバンバンとたたき、二人がかりでなんとかその暴走を止めた。
次にシュートが語り出す。「今日は大鷲の巣を見に行ったんだが、そろそろ産卵の時期に入りそうだった。来週辺りには様子を見に行ってもいいだろうな。ソプラ、今度一緒に行こうぜ。」
そう誘うと、ソプラは首を大きく縦にふった。
そしていつも最後はソプラの番である。
ポケットから、朝に取れた赤く光る星の雫をとり出して、ゆっくりと話し始めた。
「今日ここから見える、一番背の高い木の元まで行ったんだけど、上の方に穴が空いてて、中の空間にこれが置いてあったんだ。星の雫のようだけど、なんの能力も発動しないし、熱量も感じられない。これじゃ売り物にならないかなぁ。」
赤く光る星の雫を見つめながら大きくため息をつく。
「うーん仕えねぇってんじゃ意味ないしなぁ。電源としても使えないのか?」
「うん、昼間に試してみたんだけど、どうやら使えないみたいなんだ。」
相変わらずため息をつきながらソプラは答えると、リフレはニコニコとしながら
「それ、ネックレスにしたらいいんじゃない?」と提案した。
「どうせいっつも洒落っ気ないんだから、首元ぐらいおしゃれにしなさいよ。家に帰ったらネックレスにしてあげるから。」
そう言うとソプラの胸元を人差し指でトントンとつつき、三人で笑い合う。
頭上には、満天の星空にひときわ大きく輝く満月が、皆を照らしていた。
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