第4話 ウッドスペース

二人が家に着く頃には、すでに街の人々は忙しく動き始めていた。


そーっと音を立てないように家の後ろ側から玄関へ回り込む。


ギィっと玄関のドアを開けると、そこにはエプロンを着た体格の良い女性が、仁王立ちで待ち受けていた。


「あんたらー!!!どーこほっつき歩いてたんだい!!開店の準備なんかとっくに終わっちまったよ!このとろすけ!」大きな声に二人は飛び上がり、「ゴメンナサイ!!!!」と反射的に頭は地面に吸い寄せられていた。


彼女の名はフラン。リフレの母であり、街一番の商店“スケール”の経営を旦那から任されている。


フランという上品そうな名前とは裏腹に、旦那も頭が上がらない程のかかあ天下で、彼女に刃向かう者はこの街にはいないほどである。


毎日の朝の仕出しはソプラとシュートの仕事であったが、この日は狩りが遅れ手伝うことができなかったのだ。


「まったく、この街の男どもはとろすけばっかりで使いもんになんないね。それに比べて家の旦那を見てみな。頭がぴかぴかに光って毎日電球いらずさ!」そう言ってガッハッハと笑うフランと、店先で大きなクシャミをする旦那のソドム。母の後ろで見ていたリフレは、クスクスと笑うしかなかった。


「それで、今日は何がとれたんだい。」


「あぁ、ココが3つだけなんだ。ごめんフラン。」


申し訳なさそうにするソプラに、「何言ってんだい。たいしたもんだよ。」


そう微笑みかけて頭をぽんぽんとすると。フランはよいしょとココを持って立ち上がり、視線で三人を誘導する。


「早く朝ご飯食べちまいな。今日はバリバリ働いてもらうからね!」


三人は顔を見合わせ、フランの後をついて行った。




今日も売店は大賑わいで、店先にはソプラが取ってきたココが、2つに切り分けて並べられていた。


B.I後約300年が経過し、通称“ウッドスペース”と呼ばれるこの街の人口は5万人程に成長を遂げている。


元々は、お互いに連絡が取れる人間が集まり、徐々に街を形成していった為、様々な人種の人間が混在していた。


そのため多言語であった言語は英語で、通貨はドルで統一され、街の皆で構築した機関で、紙幣を製造している。


元々は一つの地区で構成されていたが、人口が徐々に増え窮屈になったこともあり、昔の技術を使い、人類は5本ある大木の枝を利用し、5区に分かれた街を築き上げた。


1番街の中心には、神木と呼ばれる街では一番大きな木があり、その幹を取り囲むように1番街が形成されている。主に行政機関が集中しており、街の政策を決定、通貨の発行、祭りの開催など、多人種で集まる街をうまく仕切っていた。


その周りを取り囲むように2番街から5番街が作られ、それぞれの区は橋でつながれている。


2番街は主に製鉄や鍛冶を行い、3番街は建設に携わる工場が多い。


4番街は売店や飲食店が混立しており、5番街は主に住宅地となっていた。


また、1番街の神木には、地上に降りる為のエレベーターが製造されており、街の許可がなければ下りることは許されない。


地上へ狩りに行く者は必ず実技や試験を経て、街の発行するライセンスを持っていなければいけない決まりになっていた。


店の経営は安定し、毎日大人数の客が押し寄せている。


リフレの両親はまだまだ働き盛りで元気ではあったが、仕事量の多さから子供たちに手伝いを頼んでいた。


ソプラは主に会計を、リフレは店先で呼び込みを、シュートは仕出しの手伝いを行っている。


もちろんソプラが狩ってきた食材だけでは店の経営はできないため、狩りを専門にしている団体に仕入の契約をしている。


“猟団”と呼ばれるその組織は、かつてソプラの父も所属しており、在籍数は約150名ほど。


それぞれが自身に合う能力の星の雫を身につけており、皆腕は確かである。


主に地上での狩りを生業としており、街の依頼を受けたり、個人と護衛の契約をしたりと、幅広く活躍していた。


ソプラも父の影響からか、猟団に入ることを希望しているが、年齢制限があり、狩りのライセンスを持っていても18歳の誕生日を迎えなければ入団はできない規則となっている。


シュートはソプラより2つ年上であるため、今年から猟団への入団が決まっていた。


そして、1番街には街で一つしかない学校がある。


“ツリーガーデン”と呼ばれるその学校は、2歳から14歳までの12年間をそこで過ごすことができ、一般教養や狩りの仕方、歴史等を余すことなく学ぶことができる。


卒業と同時に狩りのライセンスを取得できる試験があり、ソプラとシュートはその試験に合格した為、ライセンスを持っているのだ。

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