第3話 狩り
家を出てから10分ほど森の中を進み、いつもの狩場に着く。
主に果物を採取して生計を立てているソプラであるが、もう一つ、彼には大きな収入源があった。それは、木々から樹液のように染み出し、年月をかけて結晶化されたもの。
街ではこれを「星の雫」と呼んでいる。B.I後に採取されるようになったそれは、木々からあふれ出た莫大なエネルギーを蓄えており、加工して設置すると、機械の動力源や、夜間の電灯の元になる為、重宝されている。
また、人が身に着け、肌に接触させることで、様々な能力を扱えるようになる事もわかった。
その能力の大きさは人によって異なるが、個体ごとに使える能力は決まっており、現在確認されている能力は、「火」「水」「風」「力」「電気」の5種類のみである。
数は多く取れるものではないが、その存在は、人々の生活をより豊かにしていた。
「お、今日も※ココが実ってるな。」いつもの狩場で果物を3つほどリュックに入れ、再び背負いなおす。
シュッと大きく飛び上がり、太く育った木の幹を踏みしめながら、再び進みはじめた。
ソプラが木の上での狩りを誰よりもうまく行えるのには、ある理由があった。それは、父から受け継いだ風の能力を持つ星の雫を、ブレスレットとして常に身に着けているからである。
木々から転落しそうになっても風の力で舞い戻り、どんどん奥へ進んでいけるため、あまり見つかるはずのない星の雫を、既に10個ほど発見することができている。※(ココ…柑橘類、みかんの5倍ほどの大きさがあり、味は大味だがおいしい。)
また、風の能力がある星の雫は、街では3つしか発見されておらず、ソプラの父が初めてそれを見つけたことは今でも有名である。
13歳の誕生日に渡されたそれを、ソプラは今でも形見として大切に身に着けているのだ。
今日も森の奥へと歩を進める。
いつもの狩場は街から北西に10分程度の場所にあるが、さらに10分ほど進むと、凶暴な大鷲の巣があり、時期によっては大きな卵をとることができる。
また、狩場から北東に進むと、大きな食虫植物が群生しており、容易には近づくことができない。
いつもであれば、付近で星の雫を見つけるために散策するところではあるが、たいした食料の収穫もなく、大鷲の産卵時期からは少しずれていた為、狩場から北に足を進めてみる。
「初めてのコースだけど大丈夫かな…」何度も狩りを重ね自信がついていたソプラは、「16になったんだ、少しなら大丈夫だろう。」と、未知なるコースへ歩を進めていった。
生い茂る木々の上を軽やかな身のこなしで進んで行くと、20分ほどで、街から見える一番背の高い木の元までたどり着いた。
「これは、さすがにでっかいな・・・」
幹の部分は、直径20メートルほどあろうかという太さに加えて、葉っぱの大きさも他の木々に比べて1.5倍程の大きさがある。
ほー、と感心して上を見上げると、木の先端は目視では確認できないほど高くそびえている。
ソプラが目を細めながら先を見つめていると、かすかに赤い光が漏れているのが見えた。
「赤い光・・・なんだろうか。」不思議に思い、記憶から該当するものを探すが、心当たりがない。
光といえば、何度も星の雫を見つけた事はあるが、通常は緑の光を纏っており、赤の光は今まで見たことがない。
炎の輝きとも違うその光に、ソプラは妙に関心を寄せられた。
「30メートル先くらいか・・・いけるかな。」
風の力があれば何とかいけるかと、身をかがめて靴紐を結び直す。
準備ができると、膝を90度程にかがめ、思いきって飛び上がる。
勢いとは裏腹に、下から吹いた風にふわっと乗りながら、身体を大の字にして舞い上がり、徐々に光との距離を縮める。すると、木の幹の部分に大きな穴が開いている事に気付く。
なんとか穴の縁に手がかかり、ぐいっと自分の身体を引っ張りあげ、身体を起こす。
「大きな穴だ・・・って関心してる場合じゃない。赤い光の正体を調べなきゃ。」
そう言うと、穴の奥へ歩を進める。
中の広さは相当あり、その雰囲気は大きな協会を思わせる。入り口であった穴からしか光が入らない為、外の光がソプラの正面に陰を写し、赤い光が空間を照らし、ソプラノ後ろにも陰ができていた。
周りをきょろきょろと見終え、視線を正面に向けると、10メートル程先に強く赤い光を放っているそれが、丁寧に置かれるようにそこにあった。
ソプラは徐々に距離を縮め、光の元を確かめる。
「なんだこれ・・・はじめて見る色だけど、確かに星の雫の形をしている。」
基本的に星の雫は決まって正八面体で形成されており、その能力は使用者が力を込めなければ発動することはない。
使用には体力が必要な為、使いすぎると身体は動かなくなってしまう欠点が見られる。
大きさはまちまちであり、エネルギー源として使う場合には、大きい方が供給率は高いのが特徴だ。
ソプラは不思議に思いそれを手に取ったが、赤い光とは裏腹に、特に熱量もなく、力を込めたところでなんの能力も発動しない。
「これは星の雫になりそこねたやつかなぁ。」と少し落胆するが、狩りを始めてから1時間ほどが経過している事に気づき、星の雫をリュックに入れると、急いで帰路につく。
足早に穴の外に出ると、下の方から聞き馴染んだ声が聞こえてきた。
「おーい、そーこにいたかー。そろそろ手伝いの時間だぞー。」
そう言う彼の名はシュート。髪は金色で、大きな弓を背中に背負い、ソプラより身長は20センチほど大きく体格も良い。
隣の家に住んでいるリフレの兄で、街で一番の弓使いである。
「来てくれたんだ!やっぱりそんな時間かー。今行くよー!」
そう言うと巨大な木から飛び降り、風の力を使いゆっくり舞い降りる。
下に降りると、シュートが目を光らせながら訪ねてきた。
「おまえの匂いを追ってきたらここまで来ちまったよ。なにかいいもん取れたか、ソプラ?」
バッグにはココの実が二つと、なり損ないが一つ。シュートの顔を見ながら、ソプラは大きなため息をついた。
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