Round.05 ジゼル /Phase.9
一方、セラエノのアストライアは、戦闘中のラグナ艦を一瞥、圧されているものの良く凌いでいるのを確認すると、エルハサルの腕を切り飛ばして制圧しているクロムナインに向かって
「さすがに見られてる状態から、一撃必殺は無理だねぇ」
「伊達にナインハーケンズ張ってませんよ、セラエノさん」
「うわ、こっちは二刀流のゼルディム君か……片腕だと、ちょっとめんどくさいな」
「めんどくさいって、えぇ……ひどいなぁ。こっちはセラエノさんと手合わせ出来るってんで、喜んでるのに」
ゼルディムが飄々とした風で言うが、その細い目の奥の瞳はどう見ても笑っていない。
旧知の仲ではあるが、殺気は本物。と言うよりも嬉々としている。
セラエノは二刀に構えた
しかしゼルディムはこれを、暗鬼短刃を二刀に構えた
まるでそれは、隅々まで計算された演武のようですらあった。
「相変わらず、避けるの旨い」
セラエノは素直に二刀流のゼルディムの腕を褒めた。
性格的にも攻撃的ではない彼は、ジゼルを除けば、ナインハーケンズでアーチボルトやクロウドに次ぐ三番手の評価に甘んじているが、正直、その三人の中ではもっとも戦いづらい。
「お褒めにあずかり光栄です。船長の邪魔はさせない……ってのは建前で、もちろん今日は俺の剣に付き合ってもらいますよ」
セラエノもゼルディムも変則剣術の使い手。それゆえか、剛剣を好むナインハーケンズの中では珍しく、セラエノの実力を肩書以上に評価していたのが彼だった。
「やー……また困った相手に当たっちゃったな。カノエ君、悪いけど、やっぱりジゼルは任せたよ」
カノエの耳朶を明瞭に打ったのは、変わらぬあのセラの声。
単純な話だった。
カノエは寂しかったのだ。何の為に戦うのか、理屈では判っていても人はそう簡単に割り切れない。一人で戦う虚しさを。
「ああ――いっぱい任せてくれ。セラ」
それはゲーム時代は“見知った仲間と協力して戦うのは楽しい”程度のものだった。
だけど今はその信頼が力をくれる。
見知った声。背中を預ける仲間がそこに居る。ただそれだけで、カノエに宿る不屈の闘志が甦った。
カノエの晴れた心に反応するように、ジルヴァラの剣速が増す。
神速の
「……おい」
呆気に取られたジゼルが、動揺とも感嘆とも取れる声を出しながら、一方でシュタルメラーラは意に介さずとばかりに、二本目の
「コイツはどうも潮目なんだが……」
セラエノが衛星軌道上から降ってきたせいで、場の流れを一気に持っていかれた。
左腕は手首から先を損耗している。数の優位も失われ、五分の状況まで引き戻された。
ジゼルは海賊。優位な状況で強襲をかけ、手早く勝負を決めて、対価を引き出す交渉をし、さっさと撤収。それが海賊ナインハーケンズの商売手口だ。
カノエにはああ言ったが、
だから、ここはもう引き揚げ時だった。
シュタルメラーラの構えた
理屈はそうだ。だが――
「やられっ放しは性じゃなくてねッ!」
――ゴッ――と言う、
左手を失ったシュタルメラーラの“左腕の打突”がジルヴァラの
掴み攻撃と同じの軌道の、その攻撃にカノエはきっちりと反応。受けに構えられた
“ヘイトレッド”によって強化された手首から先の無い左腕は、腕部の骨格フレームで
「
赤い眼を輝かせたジゼルの咆哮が轟く。
重力を操る
左腕が犠牲になるが、打突で揺さぶられたヘルムヘッダーの隙を強引に斬る。ジゼルの喧嘩殺法。
しかし――
「生憎こっちはアトラクションもどきのガタガタ暴れるクラウンシェル筐体で、毎日セラにボコボコにされてたんだぞッ! このくらいがどってことッ! あるかぁッ!」
衝撃に激しく揺さぶられながらもカノエは操縦桿を握り締め、吼えた。
それに応えるように、セラに勝つためにずっと積み重ねていた経験が正確無比のコマンド入力を実現。
ジルヴァラはカノエの意思によって、殴られた勢いを利用しての、残像を残すほどの速度で後退回避。
剣戟を完全に見切って着地。
シュタルメラーラの必殺の一撃は、紙一重で空を斬った。
【何これ、変なデータが……バレット……タイム? 頭が、痛い? 痛み? これは……】
反動が骨格フレームを走り、
――ギイィンッ――
青い閃光に続いて、鋭く鈍い轟音が戦場を駆け抜けた。
「なにが……おきた……?」
あまりの出来事に呆気に取られたジゼルが、声にならない呻きをあげた。
エーテルシュラウドの
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