Round.05 ジゼル /Phase.4
【向こうは大丈夫そうだね】
「アトマは大丈夫なの?」
【さあ。何のことやら】
そんなことを言いながら入ったのは、ラーン軍事基地の骨格艦格納庫。全高百mの
逸る気持ちを押さえながらエレベーターから降りると、そこにあったのは、
「あれ、外装変わってる?」
「ええ、ジルヴァラの
「いつの間に……ほんと何から何まで」
「私が出来るのはこの位です。アトマ様のブラフマンへの帰還、学者として大変興味があります。海賊なんかに邪魔されるわけには行きません。カノエ様、ご武運を」
ユードラはカノエの手を取り、その手の甲に口付けをした。
「な、何を」
女性関係には疎いカノエである。
「戦勝のおまじないです。父が言うには、私の口付けはご利益があるそうですよ」
微笑むユードラに見送られながら、カノエはジルヴァラへと乗り込んだ。
アーチボルトの
カノエの目論見では、ラーンから逃げるか、そうでなくとも都市から離れて戦いたかったのだが、先制気味の
「そういえば、あの
衛星ファーンの軌道上で倒せはしなかったものの、アーチボルトの
【光学観測を見せてもらった感じ、上半身の骨格の細部が違ってたから、上半身だけ別の艦かな】
「んな二個一みたいなこと出来るのか?」
【そりゃリアクターに接続さえすれば、変な形に繋いでも動かせるからね。でも扱うヘルムヘッダーは人間だし、
要は骨格フレームの形状は変えれないものの、骨接ぎは簡単だということらしい
「人型って言う割には、
所謂スーパーロボットやヒーローロボットなどと違い、そこがヘヴンズハースのデザインの秘訣であったのだが、歪な構造ではある。
【人体の柔軟性や伸縮性を再現する都合なんだよねぇ。駆動伝達系の
「まあ確かに、昔の四角いロボットみたいな構造だと、関節曲がらなさそうだけど……」
【あ、管制から連絡】
「ミクモ様、ご依頼通り、急造で
「じゃあ、ラグナさんには上がってもらって、上空から索敵。敵
そうこうしていると、ゆっくりとジルヴァラを乗せた搬送用エレベーターがせり上がり始めた。
斜めに競りあがるエレベーターの先には、底抜けに蒼い空が見えた。
こちら側へ来るまで、空をのんびりと眺めたことなど無かったかもしれない。遠野の街はどんな空だっただろう。
「了解。ラグナ艦、上空にて索敵後、対地砲撃を行ってください」
完全に地上に出たジルヴァラと入れ替わりで、本来
「ただ上空に上がるだけで敵艦、見つかるんですか」
やや不服そうにエルハサルのラグナが言った。急にやってきた子供が、偉そうにしているのだから仕方ない。
カノエは心が折れないように、精一杯大人ぶって指示を続ける。
「渓谷へ潜伏するのは、拠点の光学センサーが地表面に遮られるからなんで、こっそり上空へ上がって索敵は良くやる手なんです。少々危険な手ではありますが……」
同じ理屈で、アーチボルトに成層圏から観測されているラーン守備側の配置は、相手に看破されている。
危険な方法ではあるが、こちら側も早急に相手の戦力を確かめる必要があった。
「危険は承知の上です。やっては見ますが……」
「見つけたら撃って、反撃される前に戻ってください。向こうからは丸見えですから。他の方は飛び出してきた敵艦をすぐに攻撃してください。砲撃で動揺している時が一番倒しやすいです」
ヘヴンズハースのセオリー通りなら、これで有利に事が進められるはずだ。
「まあ、レイオン様のお墨付きだ。当てにさせて貰いますよ、ミクモ殿」
軽く顔合わせをした程度の仲なので、僚艦としての信用はないが、レイオンのお陰か、指示に嫌悪感が出るほどではないようだった。
最初の指示が通ったので、カノエは一先ず息を吐いた。ヘヴンズハースの時でも、人に指示など出したことは無かったのだ。
あの頃、そう言うことは大体セラやその友だちがやっていて、カノエは指示通り動くだけでよかった。
「巧く行けばいいけど……」
【ま、何とかなるんじゃないの?】
アトマはこのお気楽さである。
カノエはと言えば、ゲームではないと考えれば考えるほど、負けられない緊張で手がじんわりと汗ばんでいた。
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