Round.05 ジゼル /Phase.5
「索敵――居た……! 見えました! 四……いや、五隻! 砲撃開始しま――」
ラグナが上空でそう言って、
「やらせるかよッ!」
「対応が早いッ! アトマ、飛べッ!」
エルハサルは対地砲撃の為に両手が塞がっている。
戦術的には先制を取りやすく多用される戦術だが、飛び道具装備と言うのは隙が大きい。セラにも何度も言われたことだが、今更後悔しても遅い。
「ホーミング任せる!」
【あいよ】
アトマは軽く返事をするが、音速で飛翔する敵
「間に合えッ!」
エルハサルの眼前で、黒鉄と銀紫の暴風が交差した。
ジルヴァラの
「――……あ」
――視界の端に一瞬、紅い花が咲いた。
あの紅い花がなんだったのか。それに気づいたカノエは、しばし放心していた。
「た、助かりましたミクモ殿」
エルハサルのラグナが、間一髪を救ったカノエに興奮気味に礼を言ったが、カノエの心中はざわついていた。
「いえ、僕の読みが甘かったです。すいません」
カノエは自分の至らなさに後悔し、そして、初めて人を“殺めた”事を痛感していた。
【脈拍高いよ。落ち着いて】
「はあ、はあ、はあ」
自分の耳に聞こえるほど呼吸が荒い。耳鳴りがして、口の中に鉄の味が広がる。
逃げ出したい気分と、暴れ出したい気分に苛まれ、カノエは心を必死に押さえ込もうとしていた。
「やるじゃないか少年ッ!」
疲弊したカノエの耳朶を、あの声が打った。
赤い眼から光を曳きながら、ナスカ渓谷の谷間から
地に構えた
吹き飛ばされて姿勢の崩れたエルハサルの隙を逃さず、シュタルメラーラは、
「アレは……」
「おうとも!
ジゼルが場を確保すると、三隻の
ラグナのエルハサルと共にジルヴァラをゆっくりと降下させると、声が震えないよう気を付けながら、
「ミクモ、ミクモ=カノエ」
と答えた。
互いに一隻ずつ失い、三対四。不利だが、まだ戦える。とカノエは心の中で念じる。手の震えが止まらない。悟られるな。
「
シュタルメラーラが
「……そう……だ!」
マズい、と思った時にはもう遅かった。そもそも囮のつもりは無かったし、紅い花の動揺から立ち直れて居ないカノエの言葉は、上ずって流れた。
「ん……? なんだお前……人を斬ったのは初めてか?」
「ばッ……!」
カノエの動悸が一層酷くなった。
【君、呼吸を整えて。脈が早いし、血圧も上がってる】
「くはは――今さっき、お前が斬ったのはヴォルトと云う奴だ」
ジゼルが楽しそうに囁く。聞くな、集中しろ。
だが、その声は染み込むようにカノエの耳朶を震わせた。
「気のいい男だったよ。胸から
ジゼルが胸元を挑発的に指差し、斬撃の軌道をなぞるように顔に滑らせる。垣間見えた赤い瞳が、カノエの心を掴もうと忍び寄った。
悪魔の笑みが囁く。
「――お前が斬った」
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