Round.05 ジゼル /Phase.3

 サンバルシオン・リアクタールーム。

 カノエに振り返ったユードラは、先ほどと打って変わった真面目な表情を見せた。


「聞こえてました。もう始まってるんですね」


 カノエの目論見は潰えた。

 そうしたいわけでも無かったが、ラーンを戦場にはしたくなかった。その為に大転移航路図グランドチャートを受け取った後は、すぐにでもレンドラを離れる心づもりだったのだ。

 逃げることが叶わぬ以上、もはや戦うしかない。


「はい。先日カノエ様と交戦したアーチボルトというヘルムヘッダーが流星突撃メテオチャージを敢行、レイオンが交戦中ですが、新手が迫っているようです」


「こちらの戦力は?」


「エルハサル三隻。それにカノエ様のジルヴァラを含めて四隻です」


 戦闘、となるとまだ少し怖い。


「潜伏場所は……おそらく北の渓谷地帯ですね。仕掛けた方がいいな……」


 チーム戦では渓谷地帯を軸に遊撃を繰り返されると、ジリ貧に追い込まれるのだ。引いて守るよりは、攻めて押し上げるが得策だった。

 ヘヴンズハースの記憶。これがこんなにも役に立つとは、思っても見なかった。


「敵の数も判っていないのですよ?」


「数は多分こっちより多いです。あのジゼルって人の性格は、そういう感じがします……だからこっちから先に仕掛けましょう」


「姫様、ミクモ殿の言う通りに。良い戦術眼をしておられますぞ」


 開きっぱなしだった通信端末から、戦闘中にも拘らず聞いていたのだろう、レイオンがカノエの意見を支持した。その更に向こうからは、頭部艦橋クラウンシェルに入っているアーチボルトの怒声が響いているのが聞いて取れた。


「レイオンさん。うるさいでしょう、その人」


 少し砕けて、カノエはレイオンに語りかけた。


「ですな。はっはっは! 一太刀打つのに三言は叫ぶ。なんとも騒々しい。しかし腕は一流。ちと厄介ですな」


「レイオンさん……僕は迷っています。これからどうすればいいのか……どう生きればいいのか……」


「迷えば良いのです――うおっ、と、やりますなこの男」


 アーチボルトの猛攻を受け流しつつ、レイオンはあっけらかんと答えた。


「――迷いと共に剣の業は磨かれ、数多振るうその先にこそ、真実の太刀筋があると言います。少なくとも先人たちは骨格艦フラガラッハと共に、そうして宇宙を切り開いて来たのです。ミクモ殿、信念と共に振るえば剣は、ジルヴァラとアトマ殿は答えてくれますぞ」


【あ。あたし、そういえば剣担当か】


 ユードラの肩に寝そべるアトマが呑気な事を言う。


「レイオンは剣の話ばかり……相談相手を間違えましたね、カノエ様。ふふ」


 ユードラもそんな事を言って笑ったが、カノエの頭の中では、剣の師とも言えるセラの言葉が再び甦っていた。

“迷うぐらいなら、思いついた端からに全部試すといいよ。実践あるのみ、だね!”


「とにかく動けってか……セラ……」


「ふ。迷いの一つは断ち切れたようですな」


「はい。どこまで出来るかわかりませんけど……やってみます」


「姫様と街を頼みますぞ、ミクモ殿」


 レイオンが得心を得た顔で微笑むと、向こうの方から「何ブツブツ言ってやがるてめえッ!」と言う怒声が聞こえる。


「まったく、空気を読まない男ですな」


「ですよね」


 カノエにも少し笑みが零れた。

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