Round.05 ジゼル /Phase.2

「クヴァルの骨格艦フラガラッハが一隻、ラーンの衛星軌道上に侵入しました。外宇宙船スターシップナインハーケンズは観測できず。レンドラの背面に潜伏しているものと思われます。それと……」


 ラーン軍港管制のレーダー分析官が、比較的秘匿性の高い対地接触通信でレイオンに告げた。

 首都ラーン近郊では、大地にサンバルシオンのエーテルシュラウドを走らせて、通信ケーブル替わりにも出来る。


「気になることでも?」


「サンバルシオンの光学観測探信儀オプティカルサイトが、衛星ファーンの極天座標ゼニスポイントに光学湾曲を捉えています。要請した増援部隊でしょうか?」


「アルハドラ様に要請した増援は、到着までまだ間があるはずだ……敵の増援の可能性があるか……そちらの観測解析頻度は準戦闘警戒レベルへ」


「随分動きがはやいですね。さすがはクヴァルの十天船団テンナンバーズと言ったところでしょうか」


 副官のラグナが空を見上げて言った。


「先だって単艦で流星突撃メテオチャージを仕掛けるつもりだな。面白い。私が受けて立とう。ラグナ君、侵入角から考えてもコイツは囮だ。エルハサル隊はナスカ渓谷側を警戒。私が行くまで持ち堪えろ」


「了解致しました」


 基地上で待機していたレイオンが、状況を聞いてエンディヴァーを浮き上がらせ、ラーン南の海岸線に移動させる。


 流星突撃メテオチャージ突撃型骨格挙動チャージマニューバの一種だが、剣戟戦けんげきせんで使用するものではなく、対惑星戦わくせいせんにおいて衛星軌道上からの直接、都市攻撃するための業で、戦略突撃とも言われている。その威力は文字通り百メートル規模の流星と同等以上。


 母艦である外宇宙船スターシップを対空砲火の射線上に晒す事無く、骨格艦フラガラッハを質量砲弾として直接爆撃する戦術であるが、敢行する骨格艦フラガラッハは当然激しい対空砲火に晒される為、ヘルムヘッダーに高い技量と度胸が必要とされる。


「敵艦、降下体勢。流星突撃メテオチャージ、来ますッ!」


 管制官が緊迫した声で告げる。その声に被さる様に、怒鳴り声の等方性通信波とうほうせいつうしんはが降り注いだ。


「ラーンの骨格艦フラガラッハッ! お前が天元真刀流てんげんしんとうりゅうのレイオンかッ!」


「いかにも」


「相手に取って不足なしッ! 迅狼剣じんろうけんのアーチボルトだッ! 行くぜッ!」


 ラーンの外縁に星型に配置された砲座から、重力子弾が閃光を引いて放たれる。


「――盛り上がってきたぜッ! もっと撃って来いッッ! 流星突撃メテオチャージッッッ!!」


 豪快なアーチボルトの咆哮と共に、衛星軌道上にあったクロムナインは流星と化す。

 赤い閃光が蒼い紫電を撒き散らしながら、真っ直ぐにラーン目指して流れ落ちた。


 応じて、レイオンのエンディヴァーが跳躍突撃バレットチャージ


「いざ、尋常に」


「勝負だッ!」


 落雷を幾つも束ねたような轟音がラーン上空で弾けた。

 激突の衝撃波が颶風ぐふうと化して、ラーン市街を襲う。渦巻く暴風に街路樹が宙を舞う。

 紫電と暴風の中心には、流星の如き斬撃を受け止めて、ラーンを護り立つエンディヴァーの姿があった。


「やるじゃねぇか、おっさんッ!」


「ミクモ殿に伺ってはいたが、些か口の悪い男ですな」


 レイオンはその顔に、好敵手を見つけて喜ぶ、修羅の笑みを浮べている。


「――破ッ!」


 鍔迫り合いのままエンディヴァーは突如、衝撃波を放った。アーチボルトのクロムナインは不意のことに、そのまま一気にラーンから少し離れた平野に叩きつけられる。


「なんだあッ!? ただの偏向重力へんこうじゅうりょくの衝撃波じゃねえなッ! 固有発現能力リアクタースキルかッ!」


 その言葉を聞き待たず、地上に片膝を着いたクロムナインへ、容赦なく追撃を敢行したエンディヴァーの片手半破砕剣バスタードが襲う。


「“バッシュ”と言う、接触した相手を吹き飛ばす業ですぞ。固有発現能力リアクタースキルとしては珍しいモノではないが、使い勝手は良い。このように」


 再び鍔迫って、エンディヴァーは着地。身を屈ませ膝を相手の懐に踏み込むと、今度は下から打ち上げるように“バッシュ”。

 鍔迫った重力刃じゅうりょくじんから――ゴウンッ――と重砲のような轟音が轟き、クロムナインは打上げられて宙を舞った。


「ふざけた戦い方をッ!」


 アーチボルトは器用に空中で姿勢制動。脚部先端のランディングフレームが地面を削りながら着地。その隙を逃がさず、再びエンディヴァーが斬り込んだ。


「引き離さんと、戦闘地震の余波や、剣戟戦けんげきせんの衝撃波で街に被害が出るのでな」


「せせこましいぞッ! シンザはこんな奴ばっかりかッ! まともに斬り合え、このやろうッ!」


 エンディヴァーの片手半破砕剣バスタードが、クロムナインの艦上曲刀カットラスを押し込み、重力刃じゅうりょくじん頭部艦橋クラウンシェルに迫るが、アーチボルトは良く耐えていた。

 そもそも並のヘルムヘッダーであれば、地上に叩きつけられた次の瞬間には致命打を与えている。


「完全に体勢を崩しての二度の打ち込みも、キッチリ受けて見せる……奥の手で一気にケリを付けるつもりだったのだが……ミクモ殿の言う通り、この男、天然の達人の類ですな……となると――姫様」


 アーチボルトのクロムナインと激しい剣戟戦けんげきせんを繰り広げながら、レイオンは通信ウィンドウを見ない不敬に目を瞑りつつ、主を呼ぶ。


「姫様やめなさい。なんです?」


「ミクモ殿の発進をお急ぎ下さい。こちらは、ちと梃子摺りそうです。ファーン軌道上にも怪しげな動きがあります。それに、赤眼のカーディナルジゼルは地上に降りていました。彼奴の相手は私かカノエ殿でなくては勤まらんでしょう」


 喋りながらも、レイオンの意識の大半は、アーチボルトのクロムナインとの剣戟戦けんげきせんに向けられている。ユードラはレイオンと長い付き合いだが、エンディヴァーが三合以内で倒せなかった相手は、ほとんど見たことがない。

 それだけの強敵なのだ。


「わかりました」

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