Round.04 ユードラ /Phase.12
「ご無事ですか、ミクモ殿」
ジゼルが屋上へ消え、追撃がないことを確認してからレイオンはようやくカノエの方を見た。
「あ、ユードラさんは?」
「姫様は店内でしたので、部下に任せてあります。警護が分散したタイミングを突かれました。申し訳ない」
「いえ、そんな。現に助けてもらいましたし」
「かたじけない。それはそうと、あの女、間者ではなくナインハーケンズの船長と名乗りましたが……」
ジゼルの目的が知りたいと言うことだろう。
カノエはすこし躊躇ったが、答えることにした。彼女の言葉が確かなら、もうすでにレイオン達も無関係ではなくなっている。
「ナインハーケンズに来ないかと、誘われました」
「なんですと!? ……で、なんと返事を?」
レイオンの表情は固い。
ここ惑星レンドラは、クヴァル超帝国とは敵対関係にあるシンザ同盟の惑星である。
「返事はしていません……でも、断れば
「ほう。それはちと、マズいことになりましたな」
レイオンが顎鬚に手をやり、何かを考えるように目を逸らした。
「すいません僕のせいで……」
「いやいや。マズいというのは、ナインハーケンズを相手にするには、こちらの戦力が心もとないことで、ですぞ……実は先日のサンバルシオン
その目はチラリとカノエを見た。
「レイオン、正直にカノエ様に助太刀願ってはどうです?」
「姫様。ご無事ですか」
「姫様はやめなさい。非常事態と言っていいでしょうから、今は総指揮官です――カノエ様、クヴァルのナインハーケンズと
ユードラは優雅に頭を下げた。どうもこの世界の人達は、カノエの知る大人と違って妙に行動的だった。
さっきのジゼルにしてもそうだ。指揮官が敵地のど真ん中で勧誘をするなど、常軌を逸した行動に見えるが、レイオンやユードラは、そのことにはさして驚いていないように見える。
「いや……いえ、協力はします。でも、僕のせいで平和なこの星を巻き込んでしまって……すいません本当に」
ジゼルの標的はジルヴァラだ。つまり、ここがナインハーケンズに襲われるのはカノエがここに逃げ込んだからなのだ。
「ふむ。向こうに味方しないと言うだけでも、我々としては御の字なのですが……ミクモ殿は随分と……」
「匿ったのは我々なのですから、カノエ様が気になさることはないのですよ?」
嫌味の一つでも言われるかと思っていたカノエは、この反応に拍子が抜けてしまった。
むしろ、カノエの態度に困惑してすらいる。
「え、でも……」
【いーんじゃないの? あたしとしてもセラエノ達を裏切って、ナインハーケンズに行くのも嫌だし】
「アトマ」
ジルヴァラの妖精が、ユードラの肩口からふらりと現れる。
「ミクモ殿は、腕は立ちますが少々優しすぎますな。男子たるもの、そのくらいを貸しと思うなら、パーッと剣の腕で返すものですぞ。それだけの器があることは、このレイオンが保証しましょう。何せ私の打ち込みを、悠々と受けて流してしまったのですからな。はっはっは」
そう言ってレイオンは豪快に笑った。
「レイオンはややこしい言い方をしますが、クヴァルは元々シンザ同盟とは対立関係にある
ユードラもそう言って笑う。平和な街に暮らしていたカノエには、理解しがたい感覚であった。
戦闘を軽く見ているわけではないようだが、それはまるで台風が来る、といった口ぶりだったのだ。
「分かりました……でも、その前に一つお願いが。まだ時間はありますよね?」
【ああ! そうだ、
カノエの意図するところに気付いたのか、アトマが声を上げた。
「それとレイオンさん、守備隊に用意してほしいものが……」
詳細を伝えると、
「ほう、それは良い手ですな。防衛戦はこちらからは動き難いですからな、用意させましょう。さすがですなミクモ殿」
とレイオン。ちょっとした思い付きだったのだが、こう褒められると悪い気はしない。
「カノエ様、急ぎましょう、こちらです。レイオンは迎撃の準備を整えてください」
「承知致しました――姫様の警護以外は、急ぎ迎撃準備に取り掛かれ」
ユードラの命を受けたレイオンはすぐさま配下に指示をだし、一礼してその場を去る。
去り際、
「――ミクモ殿、一人で戦おうとしてはいけませんぞ」
と、カノエに目配せをした。
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