Round.04 ユードラ /Phase.6
周囲は最も標高の低い河川付近は緑が広がっているが、崖の上には赤い荒野が広がっていて、カノエにとってはヘヴンズハースで見慣れた戦闘エリアそのまま、といった風だ。
「レンドラのステージそのまんまだなぁ……」
【いや、ここ惑星レンドラだし】
カノエの呟きにアトマが怪訝な顔をするが、ヘヴンズハースの説明しようとすると小一時間かかりそうなので適当に聞き流した。
「ミクモ殿は六番ポートに着陸してくだされ」
先を行って誘導しているレイオンが、
「あ、はい。分かりました。六番ですね」
ここまで移動する間、レイオンは気さくに話しかけてきて、カノエの警戒心も大分ほぐれてきていた。
レイオンの話の内容はもっぱら、
レイオンとの話で分かったのは“この世界”では、
騎士や剣客のように、手練れとなると一目が置かれ、大いに盛り立てて扱われるようだ。
成り行きとはいえ、レイオンの打ち込みをいなした事と、アトマの存在によって、二人の扱いはかなり高待遇らしいことが聞き取れた。
「六番……六番……と……あった」
基地をぐるりと見渡すと、“見慣れない文字”で六と書かれたヘリポートのような丸い印を発見する。
「ん……? あれ? なんで僕は“あれ”が“六”って読めるんだ?」
よくよく考えてみれば、アトマも普通にカノエに分かる言葉で喋っているし、さきほどのレイオンやユードラとの会話にしてみてもそうだ。
カノエの口から出ている言葉も、今まで日常で使っていた言葉とは違っていた。それは意識しないと分からないほどに自然に、知らない言葉を喋っていたのだ。
「これもアトマの仕業なの?」
【ん?
アトマの答えは、完全にSFに登場する謎の言語技術のソレである。
ヘヴンズハースには独自の言語がデザインとしてあったが、ポートに刻まれた数字にしても恐らくそれだろう。意識してみると、カノエにも見覚えがあった。
「……隣の惑星に言ったら言葉が通じませんじゃ、いろいろ困るしな……うん。もう、そういうことにしとこう」
立て続けに突飛な出来事が飛び込んでくるため、カノエはやや諦めの境地の中に居た。
少なくとも言葉が通じなくて困ることはない、と前向きに考えるしかない。
ゲーマーの柔軟な吸収力の生かしどころであった。説明書なしで新しいゲームをやっていると思えば、なんてことは無い。
――と、いうよりも、そうとでも考えないと頭がパンクしそうだから、なのだが。
「着陸は……ゲームの時みたいに、雑に下りちゃダメだよね」
勢い良く着陸すれば、爆弾が炸裂したような衝撃波と粉塵が舞い上がることは、ゲームのエフェクトを思い出すことで想像が付いた。
ジルヴァラは
「若い者は大抵、豪快に砂煙を巻き上げて整備班に怒鳴られるものですが……歳のわりに随分慎重ですなミクモ殿は」
先に着陸していたレイオンが、モニターの向こうで楽しそうに言う。
「初めてなんで、加減がどうも。全然」
ポートへの着陸などは、ゲームではリザルト画面の背景に過ぎないので、カノエにしてみれば初めての経験だ。
「ミクモ殿は手練れなのか、素人なのか、ほんとうに判りませんな……わははは」
未だ素性が明らかでない為に、一応は警戒されているとは思うが、
慎重な着陸も、レイオンの期待を裏切りたくない気持ちが強かったのかもしれない。肉食獣のような獰猛な雰囲気のわりには、不思議と人好きのする人物であった。
【座席下ろすよ】
ジルヴァラが膝を折り、ポートに停泊したのを確認すると、アトマが座席を
「これ、そういえば……どこから下りるんだ?」
【言うと思った】
宇宙遊泳の際は、背中のデッキに付いたエアロックから出たが、膝を折って屈むジルヴァラの背からでは、地面まで五十
【こっち】
フラフラと飛ぶ銀紫の妖精を追うと、そこは宇宙に出た時に使ったエアロックから丁度、対面にある扉だった。位置は操縦席の真後ろ、頚椎フレームが通っている所に当る。
扉が開くと、狭い作業用エレベーターで、それを使い
エレベーターから出ると、正面にリアクタールームと掲げられた扉。その脇に下に下る階段が備え付けられている。
階段を下りた先には、宇宙に出たときと同じ形状のエアロック。どうやら、ここから外に出られるらしい。
「
感心しながら扉を開ける。
【あッ、そのまま出たら危な――】
アトマが言うか早いか、カノエが踏み出した先には地面が無かった。
それもそのはずである。
「う、うおおおおッ!」
咄嗟につかんだ昇降用のワイヤーエレベーターの取っ手にぶら下がりながら、カノエは情けない悲鳴を上げた。
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