Round.04 ユードラ /Phase.7
「エライ目にあった……」
「ミクモ殿の身のこなしなら、あの程度の高さも飛び降りられるのでは?」
「いや、無茶ですから」
先に地上で待っていたレイオンが、快活に笑いながら握手を求めてきた。
モニターに感じる雰囲気通り、筋骨隆々の肉食獣のような男だったが、やはり物腰は柔らかい。
そんなレイオンに案内されて通されたのは、この基地の応接室だった。
*
「ここでお待ちくだされ。すぐに姫様が参ります」
部屋には豪奢な家具が並び、細工の凝らされたソファに座らされたが、どうにも落ち着かない。基地内や室内には機能や用途のわからない物や、見たことも無い家具の類も少々は目に付いたが、全体的にSF然とした雰囲気はあまり無い。
「では、私は仕事があります故、これで」
レイオンはそう言って一旦退出し、戸口には警備の兵が立っているものの、部屋にはカノエとアトマだけが残されていた。
「お、おちつかない……」
【しっかりしてよ、君が頼りなんだから】
机の上に立つ銀紫の妖精はそんな事を言うが、根本的に右も左も分からないカノエからすれば、アトマの方こそ頼りにしたいところではある。
しかし、相変わらず【あたしの自我はまだ未熟だから】と言ってきかない。
カノエには単なるサボりの言い訳にしか聞こえないが、そんなアトマを当てに出来ないのも確かだった。
「お姫様とお茶の仕方なんて、ぜんぜん分かんないぞ」
そもそも“この世界”で目覚めるまでは、ただのゲーム好きの高校生だったのだ。ここまでの道中、レイオンとの雑談ですら、気を使いすぎて疲れ果てたぐらいである。
【大丈夫かね、ほんと】
そんな苦労は露知らず、アトマは気楽そうに宙をふらふらと舞っていた。
程なくして扉が開き、ツァーリ恒星系レンドラ侯ユードラ=ハインリヒが現れた。
「お待たせしました、カノエ様、アトマ様」
通信ウィンドウで見たとおり、豊かな金髪に眼鏡を掛けた碧眼の美しい女性……というよりは少女で、思った以上に童顔な上、さほど背の高くないカノエよりも二回りほど背が低い。
レディススーツの上に白衣を羽織、学者っぽい佇まいをしているが、どうにもカノエには、その中学生ぐらいにしか見えない童顔と身長が気になって仕方なかった。
姫様と学者を足して割った少女、というのが正直な感想。
「えと、ミクモ=カノエ、です」
カノエは知りうる限りの礼儀作法の知識を総動員して、ソファから立ち上がると、自分から握手を求めた。
「レンドラ
「……博物学者?」
科学者とか考古学者なら分かるのだが、博物学者と言うのは、あまり聞き覚えの無いものだった。
「ざっくりと言えば、未知の惑星の生物や植物、それに鉱物なんかを研究する学問です。たしか、エルラド星団では本草学と呼ぶとか。この惑星の代官を任されているのも、ここ惑星レンドラの生態系の研究のついでです」
優雅な仕草で座るように促すと、ユードラは部屋に設えられたポットで紅茶を淹れ、対面に腰を下ろした。
促されるままに紅茶に口をつけると、ユードラがゆっくりと話始める。
「それで、カノエ様は家名が先に来て“ミクモ”とおっしゃるそうなので、調べさせて貰いました。シンザ同盟のエルラド系に一部家名を前に立てる
ユードラは話ながら、ちらりと伺うような仕草を見せたのに気づいて、カノエは慌てて手を振った。
「あ、いえ、その人たちとは多分違います。何て言ったらいいのか……」
【彼、六千年前の
カノエが困り果てて口篭っていると、アトマが唐突に口を開いた。
「ちょ、そんなこと、いきなり言って信用してくれるわけが……」
しかし、ユードラの反応は予想に反したものだった。
「
【うん。彼自身は、あたしと一緒にディエスマルティスに
「最後は余計だ」
「ディエスマルティス……伝説に聞くペルセウスアーム開拓に旅立った七隻の
うっとりとした顔でそんなことを口走るユードラは、唐突にタブレット端末を取り出すと、カノエとアトマの姿を一心不乱に写真に撮りだした。
眼鏡の奥の碧眼が情熱に燃えている。
「完全に自分の世界に往っちゃってるんだけど、どうすんだこれ……」
【
「学者っていうか、この人、大分マッド寄りだろ……学者の人が怒るぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます