Round.03 アトマ /Phase.2
ともかく慌てたところで、怒りをぶつけるにも、ぶつけようが無い。何せ相手はヒトですらない。
ゲーム特有の記号化されたオブジェクトが擬態する“リアリティ”ではなく、“存在する”と言う明確な
そういったものがカノエを包んでいて、アトマの話を真っ向から否定することが出来なかった。
「これ、外に出れる?」
部屋の中だけでは判断材料が全然たりない。窓の無いこの部屋の外が、どんなものか気になった。
取り乱しそびれてしまい、なし崩し的に状況に順応しつつあるが、だが何か、納得できるだけのモノをこの目で見たいと思った。
先ほどから周囲の空気は明瞭にその存在を示すのに、それを感じるカノエ自身が、曖昧で空虚な存在のままだ。
【もう少ししたら
「
【ヘヴンズハース……? ああ、プラネットエミュレーションの?】
「いや、こっちの話」
【船外に出るなら、コレを着てね】
アトマが座席のコンソールを操作すると、カノエが眠っていたベッドの脇の壁が開き、宇宙服と思しき服がせり出してきた。
一般的にイメージするマシュマロのように膨らんだ宇宙服ではない。
ボディスーツのような宇宙服はゲームなどでは良く見かけるが、実際に着ろと言われると、ボディラインが諸に出るこれは、なかなか気恥ずかしいものがあった。
「……ここで着替えるの?」
【うん。導体に
「着てね~」と言われても、カノエも年頃の男子高校生であるので、女の子(?)の前で着替えるのは気が引ける。
セラであれば普通に着替えそうだ、などど思いながら、
「……カーテンとかは無いの?」
そう聞くと、
【乙女か君は】
いつだかセラに言われた台詞で、同じにバッサリ斬られた。
カノエはどちらかと言えば垂れ目で線の細い顔立ちだし、目元に掛かる髪のせいで、女々しく映るのかもしれないと思ったことはあるが、快活に短く髪を刈り上げた自分を想像しても、いまいちピンとこないので試したことは無い。
それに、そもそも見た目よりも行動の問題だろうけども。
「仕方ない」
着せられていた病衣のような服を脱ぎ捨てると、宇宙服を手に取る。中はひんやりとしたゼリー状のものに覆われていて一瞬躊躇したが、意を決し、足を入れた。
服はカノエの体にピッタリ合うように作られていた。
「――それで、後はどうしたら?」
体を少し動かしてみるが、意外にも着心地は滑らかだった。
【もうそろそろユーリの設定した
百m級の艦船としては、
その中にコックピットシートと、船体を縦に貫き
カノエの記憶しているヘヴンズハースの設定と同じなら、背面の扉の向こうは搭乗者用の資材と、背部の小さなデッキスペースへの通路、脊椎フレーム内の整備用通用口に繋がっているはずだ。
「座っても?」
【どうぞ】
カノエは一先ず、設置された小さめのソファに腰をかけて一息ついた。
体にピッタリとしたボディスーツなど、生まれてこの方着たこともなかったからか、どうにも落ち着かない。
「外を見たりは出来ない?」
窓の無い部屋は、ゲームの時は気にならなかったのだが、現実に座ると息苦しく感じられた。
【
アトマが、ひどく人間臭い溜息をついた。
「
【
この小さな妖精との会話はさっきから今ひとつかみ合わず、しばらく沈黙が流れた。
ミニチュアサイズの妖精と言うと、アニメやゲームではよく出てくるが、実際にヒトのように喋られると違和感しかない。
曖昧な自己と、妙な現実感、そして不自然な妖精に囲まれて、落ち着かない気持ちのままカノエは待った。
"判断付かない時は、よく観察。焦って突撃はダメ”
カノエが落ち着いているのは、セラのそんな言葉を思い出していたからだ。
もちろんソレは“ゲームプレイの心得”の話なのだが。
この外がヘヴンズハースの設定通りの超重力空間
外が尋常の宇宙だとしても同じことだ。
カノエに出来ることは、今はまだ、ジッと待つことだけだった。
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