Round.02 セラエノ /Phase.7
「あははは! ウチの生え抜きを一太刀か! 腕は鈍ってないねセラエノ!」
ジュディの声を掻き消すかのように、ジゼルからの等方性通信波の怒号が重なった。相手を喰い尽くすような豪気を纏った声が、
振り返ったアストライアのモニターに映るのは、
シュタルメラーラの肩部
その勢いを利用しての
両翼を守る二隻のクロムナインのように
並みの胆力ではなかった。
「相変わらず、どう言う神経してんだか」
セラエノが呆れ顔をしながら、シュタルメラーラの動きを伺う。
喰い込んだ
「ジルヴァラをよこせば見逃してやってもいいよセラエノ」
殺気の篭った声が聞いた。
命を懸けた剣戟に競り勝った興奮で、アドレナリンが過剰に分泌している。ジゼルの鈍色の瞳が真紅に染まっていた。
その真偽はともかく、少なくともナインハーケンズはそう吹聴し、実際にジゼルの殺気に中てられて、恐怖するものが居るのは事実だ。
「ひぅ」
等方性通信波に乗ってきた映像からも伝わるその迫力に、後ろのジュディが思わず息を呑むのが聞こえた。
「くれてやる気はないし、大体ジルヴァラを渡しても、根こそぎ奪ってくでしょアンタ」
セラエノはそんな赤眼のジゼルの殺気にも気圧されず、飄々と応えた。
「許嫁にずいぶん辛辣だね」
「あんたが勝手に仕組んだ婚約でしょ」
「なら、力づくで連れて行く」
言葉で斬り合いながら、互いに隙を窺う。
「ジゼルさんって、船長と同性ですよね……?」
「そうだよ?」
「許嫁って……」
「クヴァルは同性婚も認めてる。遺伝子操作と増殖細胞で女同士でも子供作れるし」
「……ひ、ひええぇ」
頬を赤らめて頬を押さえるジュディを横目に間合いを窺っていると、モニターの向こうでゆっくりとシュタルメラーラが歩を詰めるのが見えた。
鉈槍の切っ先が、足場になっているフィラディルフィアの
「――と、お仕事お仕事。シュタルメラーラが
気を取り直したジュディが、怪訝な顔でシュタルメラーラを分析する。
「どうかな。ハッタリを使うようなタイプじゃないし……ジゼルはどっちかと言うと、ハッタリでそのまま相手の頭をカチ割る、脳みそ筋肉なタイプなんだけど」
「聞こえてるよ」
「すみません」
セラエノの挑発には以前から辛酸を舐めさせられている。くだらないやり取りからですら、自分のペースに持ち込むのだ。
「そろそろ、アタシのモノになれ!」
震脚。
踏み込んだシュタルメラーラの右脚先端の前シ足とヒールのような踵のランディングフレームが、フィラディルフィアの
「お断り、しま――」
言うより速くセラエノは反射的に反応し、“受け”る。
「――しくじった!」
しかし、叫んだのはセラエノだった。
震脚の武威によって受け流しを誘われたのだ。
囮の刃を切り払い、上体が浮き上がり、刃は右へ流れた。アストライアの骨格が開き、構えが崩れてコンマ数秒分の優位を失う。
既にシュタルメラーラは左腕部を、右腰に移動させた
腰椎フレームの右側下方に、まさしく鞘のような
その姿はまさに、暗剣で獲物を狙う暗殺者。投刃に使った右腕が
左脚部が滑るように前に出て、二歩目の震脚。間合いが詰まる。本命。
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