海底夜行

闇のうしおは暮れに満ち

とぷりと街を夜に浸す

海底うなぞこの息を塞いだ土瀝青アスファルト

峻厳と立つ海嶺にすら

海面うなもを掴む術は無く

ほばらも持たず這うように

泳ぐ私は深海魚


溺れる侭に闇を喰み

僅か溶け込む酸素を選って

生き苦しさを飼い慣らす

泡で膨らむ胸などは

易く潰れるものだから

拾い集めた望みも夢も

手放さずにはいられない

喉に詰め込む重い水

零れ上がった泡の粒

この手から逃げゆくきみも

所詮、空には届かない

海面に浮かび壊れるだけの

斯くも儚き恋の殻


この海を人はおかだと宣った

潰れぬ肺で息を吸い込む彼らには

我らの海は見えはすまい


溺れる内に闇を愛して

喘ぐ魚が夜を這う

海嶺の麓を巡る回廊に

灯りを掲ぐ鉄鋼魚

喰われぬように家路を急げ

短き夜はじき明ける


潮と静寂が引く朝に

白波と散る流雲よ

幻の海を窓より弔って

眠る私は夜のともがら

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る