黒の神話

世界の始まり

黒は天地を統べていた

光でもなく

混沌でもなく

其処には黒が在るだけだった


光が生まれ

黒は影へと名を変えた

光と影は番となって

天地に混沌を産み落とす


黒の時代を忘れ去り

諸人こぞりて光を讃う

海は碧く

空は澄み

大地は飾る

草木に花を

かつては黒であったなど

きっと、憶えていないのだ

彩が満ちた世界の狭間で

ひそりと

影は息を潜めた


藍深く

優しく夜に沁み透り

蒼褪めた月を慰める

陽の光に焼かれ続けて

白く亡骸を晒したきみは

その背に黒を匿っている

遙か遠みに架けられた

墓標は神の隠れ処だろう


夜は光が残してくれた

ほんの僅かな慈悲なのか

或いは、それとも

影が死守しているだけなのか

いずれにしても

世界はまだ

黒の面影を確かに語り継いでいる

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