死の宿り

全ての道は死へ通ず

軒の下にも

辻の先にも

或いは、轍の彼方にも

死は何処にでも棲んでいる


肉体は生命いのちの器

営みが終わりを迎えれば

主を亡くした廃家の如く

時に任せて荒れ果てる

床は落ち

壁は剥がれて

柱は腐り

いずれ、草木に覆われる

この身とてまた同じ事

美しい侭の消滅も

恒久的なる存続も

憧るべくもないだろう


死は無へと

全てを還してくれるのだ

その寵愛を恐れるなかれ

私が生命を手放した時

故人という偶像は

世界の中に取り残される

生の始まり

私はきみの手を取った

だから、死よ

唯ひとつ

私に従う守護霊よ

遍き識を逃れる為に

私を解体して欲しい

緩やかなる崩壊が

忘却への導きならば

きみに手引かれ逝く夢の

確かさこそが希望となろう


生命の器に死を宿し

心を籠めて生きていく

只、それだけが人生だ

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