狼達の深き森

Memento Mori

私達は森を畏れて生きる

月の獣は常磐樹の狭間

人々のむらを狩場と定め

森より出でて

森へと帰る


月は陽光を集めて虚を満たし

獣もまた月影を蒐めて本性を満たす

混沌の薄暮に地平を破り

静謐の薄明に衝動を鎮め

琥珀と薄氷の双眸は

異なる熱を飼い慣らす

三日月の牙を研ぎ澄まし

その眼差しが見据える先は

群に揺らめく命の焔


生きとし生ける群人達は誰も皆

ついへの旅路からは逃れ得ず

遅かれ早かれ見初められて冥府へ渡る

花は紅

咲くは弔い

此方と彼方の境を標す彼岸花

手折る一輪を餞に灯せば

森を愛さぬ彼らでも

迷わず遠くまで往けるだろう


私達は森より出でて

森へと帰る

暗緑の夜を棲み処とし

艶やかな闇を身に纏う

星々を縫い響き渡る遠吠えを

紡ぎ奏でるうた謡い

琥珀の煌めきに満ちし夜の光を囚え

薄氷の裏側にいつかの有明を凍らせて

深き森の奥底より命の涯てを讃歌する

絶え逝く月の再生を徒、待ちながら

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る