拾遺

鉄の命と鋼の心

鐵火の息吹

五感の熾りは灼たかな熱

茹だる胎を炉に見立て

夕橙せきとうに鎔けたる玉鋼

焔の水から生まるるは

これより冴える初心の鉄塊


強かにあれ

しなやかにあれ

練磨の夢は火花の如し

己と他の境は未だ無きにして

揺蕩う意識もまた朧

鼓動は鎚の拍より生じ

脆さは削がれ散り散りに

やがて、姿も定まれば

醒めゆく熱に幼き自我が花開く


最後にひと度

母の胎へと戻されて

きみの授かる無二の煌めき

波立つ眞砂の衣を纏い

その身に刻む父の名を

いずれ、高らかに謳うだろう


炭の香りと熱の風

吹きて乱るる鍛冶場の闇は

一本踏鞴いっぽんだたらが抱きし坩堝

願いの侭に命を鋳りつけ

唯一振りのきみに心を焼き上げん

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