葉桜

仰げば満天に見下ろす桜花のかんばせ

花御堂に囚われた爛漫のみぎり

咲き誇る眼差しの焦点を

肩越しの大地に固く結んで

慕わしげに微笑む先は

遠からず身を捧ぐきみの墓


美しきものは醜く朽ちず

儚さと潔さを雨風に委ねる

鳥歌花舞の宴に幕を

春仕舞いにもこの世の誉れを

然ながら、雪を割るように

春が冬をしいしたように

初夏へと向かう蒼穹の下

積み重なる白磁の下で牙を研ぎ

綻びの痛ましさを繕うべく

萌葱の獣は首を擡げた

声も無くさんざめきたる咆哮

透けるような薄紅を喰い破り

その指先は高く雲を掴むが如く

眩いばかりの若さを掲げている


疎らな桜花の隙間を埋めて

瑞々しく腕を広げた桜葉は

俯くものの背を庇い

射抜く陽の光を迎え討つ

夏雲が空に湧き立つような

溢れんばかりの勇壮さの影で

疾風と散りしともがらを見送る残り花

存う事の寂しさを憂い

鮮緑さみどりに心を預く遅咲きは

人にも知れず世に知れず

夏めく季節に去りぬべし

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