幻翳礼讃

雨の季節を過ぎた頃

夜は静かの園へと至る

小径に建ちたる一本灯

幻燈を林に満たすその根元には

紫陽花達が群れていた


拙き者は闇に紛るときみは知る

日向に咲くもまた然り

光に翳む佳人の如く

強く儚く陰に咲む

煙る雨の幽々たる世に

あはれを教わる花なれば

無機なる灯りの袂にて

風情を顕す道理もあろう


例えば、きみよ

燦爛と煌めく真昼の碧落に

色を捧いだ紅単くれないひとえの一輪草

天の青さに殉ずる為の華やぎで

果たして何処まで彼の花は

その美しさを誇るのだろう

影の深みに沈めるあか

陽の下で喘ぐきみのあおさに等しい


限りなき無彩色に溺れる夜に

一握の彩度を掬う夢幻燈

通りすがりのいつもの小径は

きみの微咲む楽園だった

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