2015 年 3 月 8 日
朝は空から降ってくるが、夜は地の底から湧いてくるようである。
汽車の旅も、それほど長旅ではないもののやはり疲れる。いつになっても慣れない。車窓からみる景色はかろうじて私を楽しませる。君と話して、平生の私は心を揺さぶられることがなくなってきたようだ、と思われる。個別的なものに学知は成り立たないとアリストテレスもいうが、しかし、嬉しいことはいつだって個別的なものに対して生じているのだということを忘れてしまっていたようだ。
時間がほんとうに万人にとって平等かどうかは分からないが、夜はすべてのものにほとんど平等に訪れる。汽車の車窓からふと見ただけの山にも、畑にも、神社にも、そしていくつもの大きな街にも、それぞれの地の底から夜はひたひたと溢れ出てくる。だれもいないところでさえ夜に浸される。誰一人としてその夜に沈むものがいない地でさえも、夜がひとしく訪れるというのは、なにやらことばにし難い心地がある。寂しいとも違う、悲しいとも違う。どこか心が高揚するようで、同時に何かが沈み込んでゆくような。夜の図書館をめぐるような気持ちにも似ている。
どのようなかたちであれ、花が咲き、うぐいすが鳴いてしまえば春なのだから、仕方がないのだろう。
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