第14話 「アニメになると本が売れます」

ここまでの話で、出版社がどれだけのデータを持っていて、どれだけ出版上のリスクを気にしているのかは理解できました。


とにかくコンテンツ業というのは、当たった時は印刷機でお札を刷るように儲かりますが、外れた時は目も当てられない、という状況になりがちです。

特に出版業については再販制度がありますから、売れなかった家電製品のように量販店で叩き売るような真似をするわけにもいきません。


結果として倉庫に積み上げるか、泣く泣くせっかく印刷した本を裁断処理する羽目になるわけです。

倉庫費用とスペースは浮きますが、処理費用がかかる上に帳簿上は資産を廃棄したことになる。

泣き面に鉢です。


当たりハズレがあるコンテンツ産業であり、なおかつ在庫商売であるという、二重のリスクを抱えた出版業の怖ろしさが垣間見える話でした。


ところが、それだけでは大手も含めて多数の出版社がなろう書籍に殺到している理由が説明できません。

リスクを回避することが主目的ならば、そもそも出版しなければいいのです。

リスクはゼロになります。


「そこは、出版社のリスクの話とも関係があります」


と編集の方は説明しようとし、逆に質問をしてきました。


「ダイスケさんは、アニメとか見ますか?」


「はあ、少しは・・・」と答えたものの、その時は正直なところあまり見ていませんでした。

私の娯楽の可処分時間は原稿と洋ゲー(ダークファンタジー系)に充てられています。

宇宙世紀ロボットものは好きですが、それ以外となると番組欄で目にする程度です。

何だか似たようなものばかりやっているなあ、というボンヤリとした印象だけがありました。


「アニメになると、もの凄く本が売れます」

「でしょうね」


アニメになると本が売れる。


そのとき、編集者の方はもの凄く大事なことを言っていたのですが、私は単なる一般論として聞き流していました。


というのも、その頃の私はいまだに、コンテンツビジネスの流儀や規模感というものについて、よく理解できていなかったからです。

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