第11話 データが揃っていない

ただ、編集の方の意見だけでは納得できない点もありました。


「なろうのポイントを当てにするにしても、そもそも出版社側で書店のPOSなり売上予測なりのデータを持っていたりしないんですか?」


「小説家になろう」におけるポイントを付与する仕組みは、非常にシンプルです。ブックマークすると2ポイント、評価で最大10ポイント入ります。

ですから、個人が1作品につけることのできる最大ポイントは12ポイントです。

それが積み重なって総合ポイントになります。

ポイントつけていないけれど読んでいる読者の数は、アクセス解析ツールを見ることでユニークユーザーとしてカウントすることができます。


出版社の人々が作品のポテンシャルを評価するために総合ポイントを参考にするということは理解できます。

ですが、それがイコールで買ってくれる人となるわけではありません。


なんとなくの暇つぶしで読んでいる人が多い作品と、熱狂的な読者がついている作品とでは自ずと結果も異なってくるはずです。

それらを一緒くたに総合ポイントで見てしまってもいいのでしょうか。


そんなあやふやなものを当てにするよりも、実際に書店で購入してくれた人のデータなどを分析した方が、より精度の高い予測ができるのではないか。


そうした意味のことを述べて反論したところ、編集の方は頷きながら「いくつか誤解されている点があると思います。たぶん、ダイスケさんが思っているよりも出版社は遅れてるのです」というものですから、私は素直に(また不躾に)「どのあたりが遅れてるんですか?」と聞いてしまいました。


編集の方は少し頷きつつ「そもそも、出版社では書店のPOSデータを持っていないのです。書店と出版社は別企業ですから、データを共有していません」と答えるものですから、私は非常に驚き「え?それじゃあ、これまでどうやって出版部数を決めていたんですか?」と反射的に、さらに失礼なもの言いをしてしまいました。


そうした態度に編集の方は機嫌を悪くすることなく「編集者会議で過去の実績などから、だいたいのところを判断して決定しています」と答えてくれます。

「ですが、それってデータはないわけですよね。特に新人作家とか、Web作家とか」

「そうですね。その場合は、類似した書籍の結果を参考にします」


過去や類似の事例を参考にすると言えば聞こえはいいですが、それは単なる勘の言い換えにしか過ぎないのではないか。


ひょっとして出版業界というところは、データを用いた予測について、とてつもなく遅れた業界なのではないか、という疑いが私の中で大きく持ち上がってきたのです。

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