第9話「ラノベは儲からない」と言われました

「ラノベは大して儲からない」


編集者の方の言葉は、私が何となく聞いている数字の肌感覚とも合いますし、主担当編集者が1名だけである、という編集部の現状とも一致します。

要するに1名の人件費を捻出するのがやっとの規模のビジネス、というわけです。


以前、知り合いの編集者に「本の値付けは1000万円を基準にして考える」と聞いたことがありました。かなり昔の話で今とは感覚も違うと思いますが、本の値段はざっくり1000万円を発行部数で割った数で決まると言うのです。


1000円なら1万部、2000円なら5000部、となります。当時は「だから専門書や大学の教科書は高いんだ」などと説明が続いたものですが、ラノベの発行についても似たようなものではないか、と考えました。

つまり、本を1冊だすのはおよそ1000万円のプロジェクトである、と想定してみたわけです。


1000万円というと個人にとっては大金のように見えますが、著者印税、デザイン・外注費、印刷原価、流通費(問屋と書店に払う)を引くと2割も残ればいい方でしょう。ここから会社運営の固定費を引くと1割が残ればいい方ではないでしょうか。


さらに、ラノベというか出版には返本という怖ろしい制度があります。

本が売れたからと売上を立てておくと、数カ月後に出荷したはずの本が帰ってきて怖ろしい赤字であることがハッキリしたりする、あの制度のことです。

本には再販制度がありますから、帳簿の上では資産価値が減らないはずですが、現金がなくなれば出版社は倒産です。

それを避けるために、在庫が返ってくる前に別の本を出して現金を生み出す。

そのために更なるハイペースで本を出すことを迫られる。


ハイリスク・ローリターンで、回転率が勝負の忙しい商売。

それが私の何となく想像していたラノベの出版というビジネスです。


「大体あっていますね」それが編集の方の回答でした。


「では、どうして多くの出版社が、なろうの書籍化というビジネスに大挙して参入しているんでしょう?」

それが私には不思議でした。うま味のない商売に零細出版社はともかく、大手の企業が突っ込んでくる必然性はないはずなのです。

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