7-2 抜け殻と月

 二人は浮上する都市へ進む。道中、住人が血まみれで息絶えていた。俺達の怒りをしれ、そう叫んだ信者は不朽の国の兵士に殺される。瑠璃も例外ではなく、攻撃を紙一重で交わしていった。佳夜を守りながら。


「佳夜、頑張って。もう少し」


 叫ばなくても聞こえる距離で密着している。しかし、感情の混濁に浸り、デカルトでさえ高揚していた。


「分かってる!」


 信者は同じ衣装に身を包んでいる。それ以外の人間を刃物で突き刺す。視覚で行動する獣でしかない。人の死が軽々しく道路に転がっていた。


「ついた!」


 佳夜は子供みたいに騒いだ。髪に血が付着し上から撫でている。瑠璃はそのまま浮上都市の入口を目指した。


「罠かもしれないけど、行こう」


 瑠璃は袖を掴まれ足を止める。振り返り彼女は右耳に手を当てていた。


「待って。連絡が入った」


 デカルトのテレパス機能で、ミツヒデとヒカルにアンテナを通していた。今回はミツヒデからの発信だ。


「ミツヒデが、不死の機械を見つけたらしい」


 緒方の信者は不朽の国を壊すだけだ。そこは狂気の侵攻で、復讐心を満たせればよかった。しかし、ミツヒデとヒカルは1人ずつの理念がある。ミツヒデは、瑠璃の情報である行動をとっていた。


「壊すよって」


 明に貰った情報を瑠璃は覚えていた。ズファレはデカルトだから、機械の中に入ることができる。なら、不死の機械に入っている可能性があった。


「分かった」


 ミツヒデは不死の機械を壊すために来ていた。鉄槌の落とし所が、不朽の国の機能低下だ。佳夜は言葉通りに返事する。

 今しがた、幹部の復讐が終わった。協会の幹部は死を待つのみになる。


「不死の機械、壊した。みたい」


 不朽の国の地面が揺すられる。地震かと勘違いするほど大規模な爆発だった。黒煙と舞う破片に、死なない英智は消されていく。


「急ごう」

「わかった」


 2人は浮上都市に侵入した。

 浮上都市は重力を無視した建物が乱立していた。

 この都市は赤色がモチーフとされている。心に押し込めた気持ちが、破裂しそうな赤色だった。

 また、人間の歩行をコマ撮りして、すべて重ねたような彫刻が置かれている。

 二つの白い角の建物が、都市の中央で、人間を見下ろした。まるで、クラスの騒がせ者みたいに人目を引く。建物は、機械の信仰を象徴としていた。並々ならないエネルギーを肌で感じる。

 その中で、機械は決められた命令を守っている。床に落ちた血液を掃除し、戦闘員を不朽の国に排出した。


「佳夜、どこにいるか探せる?」

「待って。何か」


 浮上都市の住人は瑠璃に目を向けない。顔は俯いてるか、不朽の国の崩壊をテレビを見るように頭を垂れていた。

 脳内の青い紐をつかむ。接続を離さないよう意識して、瑠璃は不気味な雰囲気を感じとった。


「これって……」

「ミイくんに似てる」


 人間の悲鳴がこだまする。その方に瑠璃は目を向けた。かの爆発が起きたところで、あるものが蠢いている。


「あれは……」


 人間の身体を膨張させて、横流くしたような歪さがあった。核シェルター跡にいたミイと同じ、罪と呼ばれる生き物だ。彼らは体の表面から尖った爪を拡大し、人間に穴を開けている。刺された人間は脱力し、罪の口へ流れ込んだ。


「不死の機械は、何かを押え付けるものだった?」

「佳夜、君の言う通りだ」


 ズファレが彼女らの横に立っていた。首を落とした個体と違いがない。金髪が風に遊ばれている。相手の敵意を諸共せず、目をどんよりとして何を見ているか分からなかった。


「不朽の国にあるのは、緒方式の模範だ。罪という肉体膨張生物に、人形を当て込めて復活させる」

「なんてことを……」

「有効活用と呼んでほしい。カセットも同じようなものだろ」


 彼は吐き捨てる。それに、口論してはいけない気がした。彼女の身体は燃えるほど暑がる。


「明はどこだ」

「教えない」


 明の居所を二人は知らないが、相手に知ってるふうに装うことが最善だと選択した。ズファレはどう答えても、カセットを考慮して行動不能に持ってくる生き物だ。それを瑠璃は死んで学ぶ。


「言わないなら殺す」

「私はやりたいことをやる」


 彼女は背中に友達を背負った。ズファレの攻撃を交わして、回し蹴りを入れる。ズファレは体制を崩して、都市から落ちていく。

 バケモノが不朽の国を覆っていく。全体的に黒い姿は捕獲し口に放り込む。そこに、信者や戦闘員の区別はなくて、等しく餌として取り払われていた。


「ねえ、瑠璃!」

「分かってる。飛び出した」


 ズファレが逃げようとしているのは明白。都市を落とすことが明確な近道だ。

 そのために、彼女は打開策をねる。デカルトを殺すことは出来ない。都市を使い、ズファレは逃げようとしている。

 彼女のポケットから食料が落ちた。背負われたデカルトは見てないふりで、彼女の知恵を待つ。


「佳夜、何体?」

「今は3体。この都市って不浄しかいない」


 デカルトのスキャンに不浄が引っ掛かる。赤いビルの影や歪曲した家から、不浄が彼女らに標準を合わせた。四足歩行の殺人兵器。瑠璃は2体だけ見定めた。


「ズファレはどこ?」


 彼女は慣れた手つきで、鉄色の液体を飴みたいに震わせる。緒方の身体に任せ、防御となるものを作らせた。液体は形ができ、車の表面が完成する。弾丸は車に阻まれ届かない。


「いた。真ん中だよ」


 車から縦断を打ち込んだ。身体が勝手に覚えている。黎ほど精密ではないが取り繕う。車の上から飛翔した。


 友人は機械の都市を指さす。汽車の音が瑠璃の耳に響いた。

 敵だけど納得させられる。建造物に瑠璃は感銘を受けてしまった。浮上都市というアートは、人類と機械(デカルト)の将来をアリアリと描いている。

 それでも、彼女は自分のために走った。彼女は緒方に言われた、間違ってもいいを復唱する。自分の逃げ方を模索した。

 緒方黎を求める人はいない。

 瑠璃を強要する自分も姿を消した。ここにいるのは、ワガママな子供だ。


「不浄は下がっていろ。ズファレから命令されて来た」


 山に近づけば大きくなるように、中央も頭角を表してくる。呼び止めたのは、聞き馴染みのある男性だった。黎から助けてくれた、緒方の裏切り者。


「うつるさん……」

「俺は、黎に『さん付け』される覚えはない。俺を恨んでないのか?」


 レティクル座の彼は同じように愉悦に浸っていた。再現してるような状況で、不浄は引き下がっていく。

 緒方にとって、再現という表現は正しい。


「……隣の女性は誰だ?」


 エネルギーを拝借し青く光る。相手の身体も同色で、怒りを表していた。この都市で、人間らしい感情を保有している。


「明じゃないよ」

「お前、明を離し。いや、いい。答えるな」


 うつるは彼女の間合いに踏み込んだ。2足で先端は、瑠璃の腹部を殺害範囲に入れる。刀は残像で分身した。


「あぶない!」


 佳夜が完全に緒方の体を乗っ取る。既存の神経を活かし、腹部を掠めた。


「ゴミ野郎が……」


 彼は黎と誤解していた。容姿も助けた頃と幾分か幼い。


「遺言を聞いてやる。明に贈る言葉はあるか」


 力の差は歴然だった。付け焼き刃の力では相手に太刀打ちすらない。カセットの回復力は何分か掛かる。

 すべては遺言にかかっていた


「……俺を貶めたとき、ざまあみろって思ったんだろ」

「どうして、それを知っている」


 電車の会話と、村での苛立ち。せめてモノ反抗期。言葉で終わらせるしかない。うつるは律儀に待っていた。それは、元親友だからだろうか。瑠璃は他人だからわからない。


「明は、ここに、いない」

「嘘をつけ。明は不朽の国のどこかにいる」


 瑠璃は仰天して見上げた。太陽が反射して表情が伝わらない。


「研究室のときに、お前は明を守ると言った。あれは嘘だったのか」

「マモ、るさ。アンタに言われなくても、分かってる」

「お前は明が好きだと言ったじゃないか!」


 親友の足を突き刺した。非常な現実が彼等の行方を観察している。うつるからなにか水滴が落ちた。


「お前が! 守るって。守るって言った。言ったから。言ったから! 言ったから!!! 戦えたのに! 戦えて、ざまあみろって思ったのに!!!」


 自分の鈍感さを痛感する。足の痛みで呼吸が苦しくなった。

 正面の少年は傷一つなく、傷ついている。


「ふざけるなよ!!!!!! なあ!!!!! 研究室で、なあ。研究室で、明に安っぽい慰めの蜜で誑かして、俺を裏で馬鹿にしていたくせにさあ! 俺、言ったよな!!!! お前、お前ずっと明が好きじゃないとダメだろ!!」


 仮面が剥がれていく。空に上昇する。瑠璃の感情はエス系結晶と同じ色になる。


「お前さえいなければ裏切ることもなかったんだ! やりたい分けなかっただろうが! 死ぬ時まで一緒じゃないと。お前らを俺が殺さないとダメだろうが!」

「お前は声かけなかったのかよ」

「ああアッ その薄汚い口を開けるな。明はどこだ! 明を殺すな! 俺が明と黎を殺すんだ。出せ!! 出せ!!」

「アンタは殺しても変わらないよ」

「お前はなんなんだよ!」


 村で彼は意識が抜けていた。伝えたいことのために、知らない女性と連れ添う。


「緒方瑠璃。アンタの未来を見た」

「俺は終わらせたい過去しかない」


 うつるは戦意をなくした。少年の失恋が、機械の上で熱せられる。わんわんと泣く声で不浄は揺るがない。


「俺はお前に止められたくない」

「現実逃避者が、何もかも遅いんだよ」

「佳夜、私は大丈夫!」


 彼は我に返る。動揺で把握していなかった。瑠璃の身体は発光しなくなっていたことに。


 彼の視界が眩む。数発の銃弾が、彼の右手に命中する。


「佳夜!」

「瑠璃!」


 デカルトの意識は相棒の手をすり抜ける。身体を同居して、刀を再び握らせた。相手の刀を払う。


「瑠璃、痛かったら言ってね」

「絶対、痛い」


 刺さったカタナが抜かれる。腹部の傷は癒えていない。それでも、後ろに下がる。


「逃がさねえ」


 うつるの左腕が鼻先を触れる。爪が引っかかり皮が剥けた。

 彼女は拳銃を握らされた。銃弾を佳夜が装填し射る。


「痛くねえよ! そんなのは!」


 瑠璃は閃光で視界を遮り、不浄に佳夜が乗り打ち込んだ。それだけでも、カセットである彼は対処する。


「佳夜。ごめんけど、拘束具をとって」


 緒方がヒカルに使った拘束具を預かっていた。接続を分離して、佳夜に嵌めてもらおうと健闘する。


「なっ」彼は失速して両足を付く。何発か打ち込まれていた。だれかの後方支援で、瑠璃は逃げられる。


「ヒカルが大丈夫かって!」

「助かった!」


 彼は単独行動でバックアップする。その成果もあり、うつるの手首に拘束具を装着することが出来た。

 佳夜は油断せず緒方の手で車の表面で防御する。デカルトの体は丈夫で、それを活かして不浄を蹴散らしていく。


「なぜ、なぜ。だ」

「マコさんを忘れたの」

「……?」

「もういいよ」


 浮上都市で爆発が起きる。不浄の破片が彼女らの空をまう。


「え、な、何だろ……」

「何かあった?」

「不浄が壊されていく」


 ヒカルがサポートしてるのは明白だった。自身の危険を顧みず数を減らそうとしている。それとは別に、一人の人間が不浄に手を突っ込んでいた。宛ら、死ぬ前の緒方黎が行っていたように。


「……女性かな?」


 相手は佳夜と目線があったら苦笑した。すぐさま建物の陰に隠れる。

 うつるの呻きだけが静かな都市で染み渡った。

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