7-1 月光のフィクション

 男性が運転する車に乗せられながら、後部座席でくしゃみをした。


「ありがと。……佳夜は残らなくてよかったの?」


 テッシュで鼻詰まりを解消した。丸めたゴミは車内のゴミ箱へ落とす。瑠璃は鼻をすすった。


「うん。最後までついていこうと思う」

「わかった。絶対、離れないから」


 彼らは別々に不朽の国へ侵入する。最初はヒカルと信者が調査として乗り込む。説明を受けてから、ズファレを射殺する。その後、全精力で襲撃する計画だ。


「でも、瑠璃がズファレのこと知っててよかったよ」


 ズファレは複数体も存在すること。それらを統治する何かがあり、信者は各個撃破が目的だった。


「黎の身体に入る前に色々と教わったから……」

「でも、政府が武器を提供したって言ったじゃん」

「政府がバックについているなんて、凄いね」


 緒方家は利用されていた。国の腫瘍を危険分子と交戦させて、互いに潰れることを祈っている。そんな腹が見え見えだった。最も、ミツヒデは純粋に好意として武器を受けっているようだ。


「どちらにしろ結果は変わらないかな」

「瑠璃の言う通りだね。月の民を異常に信仰し、その考えに背けば村ごと滅ぼす。危険な団体の行き着くところ、か……」


 謙也は緒方の信者に村を襲われた。そこにどの正義があっても、死んだ人は蘇らない。ズファレが緒方を解体することが正しかったのか。終わったことに付箋をつけるのは簡単だ。

 現実は事実だけを記録して、生物の脳に刻まれる。


「もう少しで不朽の国です。準備はいいですか」

「佳夜は大丈夫かな」

「うん。侵入して、早く帰ろう」

「そうだね。生きて帰ろう」


 運転手はミラーを垣間見る。ミラーに二人の顔が写って、決意を固めていた。

 この戦いに勝敗はなく、緒方の敗北は背中についている。それでも、被害者は刃を突き立てていく。足が動かなくなるまで。


「到着しました」


 高い塀の側面に車は止まる。そこを乗り越えたら駅の道になるはずだ。


「さっ、テロリストとなりますよ」

「分かりました」


 瑠璃は気休めの装備をつける。隣のデカルトも用心として武器を拵えていた。運転手は協会と連絡を取って計画の進行を質問している。


「どうやら、順調みたいです」


 壁から振動が伝わる。耳を当てたら男女の金切り声と銃声が響き渡った。


「行きましょう」


 不朽の国は不規則な形で陣取っている。上から俯瞰して、左下の窪みに剣士が出入りする裏口があった。そこから、彼らは侵入する。中でヒカルが待機してることになっていた。


「まさか、承認型で入らないなんて」

「ヒカルさんは瑠璃さんの鉄板を回収してます。その力もあるかと」

「本当に、すごいね」

「瑠璃、左」


 男性の背中に佳夜を乗せる。瑠璃の身体は発火して青く煌めき、左の不浄を見据えた。四足歩行の機械に似た物に、銃口を向けられる。

 彼女はフェイントで左から突進した。銃弾が彼女の右肩を掠める。左寄りの額と、左太ももの側面に血が走った。緒方の身体は棍棒の生成をする。スライディングで身体の下に入り込み、慣れた手つきで右から左への振り回す。不浄に穴が空き、そこから棍棒を詰めた。紐を不浄の腹に括りつけて、手に持つ。紐を引きずりながら彼らと合流した。不浄は壊され動かなくなっている。


「傷は浅い。行こう」


 男性から佳夜を受け取る。遂に不朽の国の裏口からノックした。合図の途端に、鉄の扉は開かれる。


「入って」


 ヒカルが三人を呼び込む。入口の左右を警戒して閉めた。瑠璃は鞄から地図を取り出し、慎重に歩く。長い通路に兵士達が右往左往していた。


「出迎えたズファレを撃ち落としたが、瑠璃の言う通り死ななかった」

「その後、皆で乗り込めた?」


 兵士の足跡で立ち止まる。ヒカルは先頭に付き、曲がり角にいる人が去るのを待つ。


「成功した。兵士も慌てて交戦してる」

「このために訓練しましたからね」

「それにしても、よくズファレを後手に回したね」


 瑠璃は最初から疑問だった。ズファレは緒方黎を出し抜いたけど、今回はうまく行き過ぎている。ヒカルは簡単だと口元を釣り上げた。


「明を捕まえたから、扉を開けてほしい。って、事前に連絡を入れていた」


 それに、緒方黎を出し抜けたのは、どちらかにマーカーを仕込んでいたからだと推測している。緒方黎であれば、瑠璃の居場所は特定されていたはずだ。


「おそらく、明に何かしら付けていたのだろう」


 明に身体は無いが依り代はある。結晶か、結晶の周囲に黎が知らないような発信を付けていた。外せば飛んでくるような。

 不死の機械は裏口から遠かった。兵士の目をくぐり抜け、到着するには時間を有する。それでも、4人は順調に近づけていた。そう、この時までは何事も無かったのだ。


「うっ……」

「ど、どうしたの?」


 佳夜は後ろの男性が蹲ったことを知った。慌てて背中をさすり、ほかの2人もその姿に目を凝らす。男性は佳夜の手を離さないほど強く握った。


「あ、ああ……」

「佳夜! 離れて!」


 男性の足元に、鉄色の触手が突き刺さっていた。それは紛れもなく、ズファレの攻撃だ。


「予想より早かった」

「作戦を変更。俺は単独行動に移る」


 指揮官はズファレの到着を頭に入れたら、右耳に手を当て連絡を取る。接続したままの瑠璃は、一足で佳夜の手を掴み、男性の腹を蹴る。


「二人とも、死ぬなよ」

「ヒカルこそ、生きてね」


 鉄色の触手は運転手の男性を食い破るように切れにした。触手は何かを探るように当たりを触っている。四方囲まれた通路の手すり、二人から遠ざかり、そして近付く。


「まさか君が戻ってくるとは意外だった」


 彼女の奥歯が噛み合わない。目の焦点は定まらず、恐怖が耳に届いてくる。この声は死を帯びて冷えていた。

 彼女の右手に温もりが伝う。暗闇の海から意識が引き上げられて、顔はそちらに向く。佳夜が手を握っていた。


「焦らないで」

「……そうだね」


 二人の前に金髪の男性が現れた。姿形は変わらず、スーツに身を包み後方の触手を納める。


「さ……、いや、緒方瑠璃が正しいのか。来るとは思わなかった。見直した」


 彼女は姿勢を低くして、右手を横に振り刀を生成すた。切れ味の良いものと行かないが、急ごしらえにはなる。


「私もそう思ってなかったよ」

「そう怒るな。君に提案があるんだ」


 彼は彼女に背を向ける。瑠璃は彼の背中を注意深く睨んでいた。不用意に攻撃すれば床が防御する。彼の考え通りに動いて寝首をかく。


「提案?」


 そこしか歩行できないみたいに、彼は素早く進む。彼女に回答するよりも早く、天井がなくなった。

 そこは薄汚れた道と潰れそうな家が並んでいる。


「浮上都市に行こう」

「ここじゃないと、嫌」

「私に敵意はない。あの男は邪魔だったから殺した」

「そういうことするから、信頼できない」


 ズファレは手を下にする。触手が地面から突出して、手に留まった。街灯に虫が集る光景に似ていた。


「なら、ここでも構わない。君に相応しい話だ」

「早く言って」

「私の味方にならないか?」

「断る!」


 否定を予想していなかったようだ。眉を釣り上げ無言で見つめ、やがて口を開く。


「目的である人間を二分するということだが、実験以外で言い出したのは、君を入れて2人目なんだ」

「考えが珍しいから誘ったってこと?」

「その発想ができるのはこちら側の人間だけだ。お前は人の話を聞かないって言われたことないか?」


 判断がつかなかった。彼は触手に集中し、油断しているように思えるが、それも罠かもしれないと。


「絶対、理解したくない」

「一側面で人を判断するな」


 彼は不敵に笑を浮かべる。手を閉じると触手が消えた。

 何かの爆発音が彼女の頭上に轟く。人の悲鳴や勇ましい声が、不朽の国に伝達していた。自身の国を犯されても、ズファレは動じず話を続ける。


「俺は月を壊したい」


 月の形状を崩壊させたいわけではなく、月に住む人々を虐殺したい。彼の言葉に裏が含まれている。


「……貴方はデカルトじゃないの?」


 デカルトは月の民の命令で動く手下のようなもの。ズファレの遠い背後のビルが揺れて、横に転倒する。


「月の民は地球に『試練』として不浄を上陸させて、差別的・学歴と書類判断で、人間のデータを月に送っている」


 それは、地球に暮らす人々が常日頃から感じていたものだ。内包的に抱えていた悩みを彼は吐露する。


「俺は人間の脅威になりたいから、月を壊す。ここはそのために作った」

「ああ、兵力が必要ってこと?」


 同じデカルトの佳夜は、何かを汲み取ったようだ。彼は鼻で笑い頷く。


「デカルト(おれ)は人の発想に縛られている。不死の技術は緒方のもので、不朽の国の基盤は、テロ組織を乗っ取った」


 砂煙が周りに広がっていく。信者は猛威を振るい住人に牙を向ける。不朽の国に住む人々は怯えても、復活するから動じない者もいた。


「人間が好きなんだ。だから、月の民をぶっ壊して、みんな殺して一つにする」


 その手は瑠璃に伸びてくる。手のひらは表面が剥がれて、鋼鉄が空気に触れていた。


「一緒に来たら何でもしてやる」


 彼女らは裏口の通路を抜けている。道を真っ直ぐゆけば浮上都市に到達するはずだ。


「それを知っても、私は貴方を好きになれない」


 彼女は飛翔した。ズファレとの距離を一気に詰める。刀はズファレの首に吸い寄せられた。

 彼女は手を横に振った。


「ふっ」敵の首は後ろに転んだ。断面は機械のチューブが火花を散らしている。「なぜ、攻撃すると、わかった」


「貴方はココにいないんでしょ?」


 ズファレは目で標準を合わせ、差し出した手の方向に触手が突き刺さる。瑠璃は見破って先手を打った。


「浮上都市で待っている」

「私の目的が先かな」

「なら、尚更来るといい」


 ズファレの機体は微動だにしなくなる。彼は複数の機械を従えていた。瑠璃は頬の汗を拭く。


「佳夜、見つかっちゃった」

「……都市に行こう」


 2人は持続して、瑠璃の髪は青いままだ。そのまま、先の浮上都市へ突っ走る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る