第一九話 楽座なんていっている場合ではない。逆に座を作ったほうがいいだろう。
■天文一〇年(一五四一年)八月 甲斐国 躑躅ヶ崎館
とりあえず、武田八幡神社宝物殿の修理キャンセル、黒川金山の金山衆頭領田辺新左への官途名(官職)の許可、寺社からの寄付で、だいぶカネは集められた。
ただし、このカネは『ほうとう施し』でほとんど消えてしまうはずだ。なんとも侘しいぞ。
根本的な対策として、来年からは養蚕や綿作などで、甲斐を徐々に豊かにしていく対策を取る予定だけれど、問題がある。例えば綿を栽培したとしよう。
綿を作った農民は、甲府商人などに売るだろうな。だが甲府商人が甲斐での綿の需要を満たすほど売り尽くしてしまったら、それ以上綿が売れなくなってしまう。これではダメだ。
甲斐国外に『輸出』しなければならないな。
考えられる輸出先といえば、友好国であり城下町
ただこの駿河へのルートは、平成でいえば国道五二号線や、身延線に相当して、富士川沿いの難所もあって、馬が転がり落ちる事故があったりと、決して大量荷物の輸送には向いていない。
大量の荷物を駿府に輸送するためにはどうしたらいいか。思い出したよ。授業でやったよ。富士川の水運を利用すればいい。
ちなみに、富士川は『FUJIKAWA』と読んで『FUJIGAWA』ではないぞ。覚えといてくれ。
江戸時代に、河村なんちゃらという人が、富士川の難所を切り開いたり、浅瀬を掘ったりして、舟が通れるようにしたと聞いたぞ。
富士川の水深の関係で
水運の工事予算はさすがに、ヤクザまがいの集金では無理だな。アニキと相談して工事予算をゲットしなければな。
甲斐からモノを輸出するのも大事だが、モノを売りに来てもらわないといけないはずだ。そうなると関所で関銭を取るのは、流通コストの増大につながるから廃止しないとな。
治安維持のために関所は残すとしても、小遣い稼ぎ程度のカネで、甲斐の商業発展を阻害してはまずい。急いで撤廃しよう。
関銭撤廃はともかく、富士川水運などは長期的な対策に分類されるだろう。できれば、カネを掛けないで、何か短期的な商業に関する対策を打てないだろうか。
記憶を辿ってみよう。確か、あの本には、先物と現物の取引所を作ったなどと、書いてあった気がするぞ。先物取引所は将来の期日での売買取引の約束を? はて。相場による損を防げるとか書いてあった気がするが意味がわからないな。アニキに考えさせよう。
現物取引所は、普通に何かを売り買いする取引場所だよな。取引所を作るといいことがあるのだろうか。売るモノといえば、これから収穫期に入る米ぐらいしかないな。
うん。しっかり考えてみるぞ。
甲斐では年貢を、田の面積に比例した金額で支払う貫高制というシステムを採用している。農民は基本的には、収穫した米のなかから自分たちで食べる分をキープして、それ以外の米を売ってカネに代えて年貢分のカネを領主に支払うことになる。
商人に直接米を売るのと、取引所で米を売るのと何が違うんだろう。何人も買い手の商人が集まって米を買い取ることになるから、農民は言い値で買い叩かれることはなくなって適正な相場で売れるだろうな。市場のセリみたいなイメージだ。農民のメリットはあるな。
買い手の商人の立場からすると、米が必要になった場合に農民から直接買い取る必要がなく、取引所で相場の値段で買えることになり便利だろう。これまたメリットはあるだろうな。
米相場の上下で投機を狙うこともできなくはない。これは損もあるだろうし得もあるだろうな。商人の自己責任だろう。
武田家として、取引所を設置するメリットはあるだろうか。
例えば、取引所で米を扱える商人を限定すればどうだろう。『米座』を結成させて、座のメンバーでないと取引所で取引できなくする。
座のメンバーでない商人が米を売買したければ、座のメンバーの商人と売買することになる。多少コストは掛かるだろうが特に問題ないだろう。
よく考えれば、米座を結成させると、米座自体に課税することも可能だな。
平成での法人税は、各企業・商店に個別に税金を払わせていたけれど、米座自体に課税すると非常に事務処理が楽になるはずだ。
発展的に考えれば、売上税的に取り扱い数量に比例した課税をすることも可能になるだろう。
現在は、米しか取扱商品はないけれど、『麦』、『大豆』などは来年以降取引できるだろうな。来年からスタートさせる『綿』『絹』などにそれぞれ、座を結成させれば、都合がよくないだろうか。
楽座なんていっている場合ではない。座を結成させて商人から税金を取るのはすごく楽でいいアイディアだろう。まずは、米座を作らせようか。米座へ商人が加入するには加入金を支払うことにして、加入金を税金として一部徴収する。これはなかなか良さそうだぞ。
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