第二〇話 先人の知恵はすごい。特産品を思い出してみる。
■天文一〇年(一五四一年)八月 甲斐国 躑躅ヶ崎館
商業振興のための関銭の撤廃、富士川水運の工事、未来知識をカンニングした取引所と米座についてアニキに相談してみた。
関銭の撤廃はすぐにオーケーをもらえたけれど、やはり富士川水運の工事はかなり費用が掛かるだけに、金山の金の産出量と相談して開始しようという結論だった。釜無川の治水工事、つまり信玄堤の工事もかなり緊急を要するので、工事する人手の問題もあるようだ。
取引所や米座について、簡単に説明したところ、アニキはなにやらしばらく頷いていたが、驚きの声をあげた。
「じろさ、すごいねえ。まさに天賦の才だよ」
いきなり、お兄さまどうしちゃったかな。かなりの名案をおれは提案したんだろうか。だが、元ネタが 未来知識のカンニングだけに、かなり気まずく肩身が狭いな。
「ん? そうかなあ」
「先物取引というの? 将来の日付での取引を約す仕組みは。いやはや、これは大変なことだよ」
まずい。先物取引は全然意味がわかってなかった。笑って誤魔化すしかないぞ。
「ははは。左様にすごいことかな?」
「これはすごい。たくさんの領民が助かることになるなあ」
と、嬉しそうに話し出すアニキの言を要約してみよう。
わかりやすく、米一〇〇石で五〇貫が通常の相場とする。
一〇〇石の米を収穫できる農民の場合、田植えをした直後の五月に、収穫後の九月末日に一〇〇石五〇貫で米を売る先物取引をする。約束といったほうがわかりやすいかもしれない。一般的な相場だから買い手もつくだろう。取引成立だ。
九月末日になった時点で、米相場が一〇〇石三〇貫に下がったとする。先物取引では、相場の上下の差をお金で精算するので、差し引き二〇貫の得になる。実際に収穫した米一〇〇石は三〇貫で売れるから手に入るお金は五〇貫だ。
逆に、九月末日になった時点で、米相場が一〇〇石八〇貫に上がったとする。先物取引の相場の上下の差額を精算すれば差し引き三〇貫の損になる。だが実際に収穫した米一〇〇石は八〇貫で売れるので、手に入るお金はやはり五〇貫だ。
厳密にいえば先物と現物の米相場は微妙に差が出るはずだし、取引手数料のようなコストを払うとすれば、五〇貫より多少手元に入るお金は少なくなるだろう。だが、先物取引をすれば米相場の差による損を防ぐことができ、もちろん得になることもないが、収穫時の収入が予めほぼ確定できることになるな。
なるほど、これがリスクヘッジというものか。先人の知恵はすごいし、すぐに理解するアニキもすごい。かなり見直したぞ。
取引所の実現にはシステムの周知や、取引所の実際の場所の策定、取引できる商人を限定する米座の導入や、取引できる農民の限定などが必要だろう。だが、うまく導入していけば、不作だからといって種モミまで食べてしまって、翌年の田植えに影響するということは少なくなるはずだ。
他に何かできることが、あるだろうか。
記憶を辿ろう。そうだ。
うーむ。甲斐と信濃の境にある
水晶峠にはこの時代ならば、大きい水晶がゴロゴロしているかもしれないよ? 磨いて加工して幸運の水晶などと名称を付けてだまくらかせばとても高く売れるかもしれないぞ。なにやら、詐欺師になったような気分だが、こちらも透破衆案件だろう。
他に山梨県の特産品として思い出したのは
他に特産品では和紙があったぞ。市川大門(山梨県市川三郷町)あたりで
考えてみると意外と出てくるものだね。和紙の原料といえば、
あとは、富士山に生えているスズ竹という細い竹を使った、笊などの竹細工。うーん、地味だ。だが、意外と実用品だから需要があるかもしれない。鹿革に漆で模様を付けた
だが、だいぶ思い出したから、有効利用できるものもあるだろう。透破衆には面倒を掛けてしまうけれど、がんばって調査してもらおう。
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